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5 バレンタインと王子
私はまた、ショウ様の夢の中へと入ってしまったようだ。
またか。前回はかなり色々と危なかったから、今回も気を引き締めていかなければ。
いつもの何もない草原。私はショウ様を探さずに、その場に腰を下ろした。そう、出会わなければいいのです、わざわざ罠に掛かりに行くことはしなくて良いでしょう。
「しかし……ショウ様がお目覚めになるまで待つと言うのも、暇だな……」
何せここには娯楽らしいものがない。手持ち無沙汰なので、草を手でいじって遊んでいると、草を踏む音が近付いてきた。
「……お待たせ」
「はっ、ショウ様っ」
見上げると、やはりそこにはショウ様がいる。私は慌てて立ち上がると、今日はお洋服をお召しなんですね、とショウ様の服を褒めようとした。
しかし、ショウ様が着ていたのは服ではなく……チョコレートだ。まごうことなきチョコレートだ。ショウ様は、全身綺麗にチョコレートでコーティングされていた。
「ショウ様、どうなさったのです? その……」
「バレンタインだから……」
ふわりと、ショウ様が私に近付く。するとチョコレートの甘い香りが、私の鼻腔を掠め、身体が熱くなった。ああ、これも魔力のせいですね分かってますこれで私を誘惑して私の理性を試しているんですね。
「ショウ様、バレンタインとは何でしょう? 悪魔崇拝の儀式か何かですか?」
私は近付いてくるショウ様と、一定の距離を保ちながら尋ねる。これ以上、近付いてなるものか。
「リュート? どうして離れるの?」
「どっ、どうしてと申されましてもっ。私はまだクビにはなりたくないので!」
そう、私には生活がかかっている。魔王様は私の腕を見込んで、ショウ様の世話係にあてがってくださったのだ。魔王様の期待に、私は応えたい。
「……僕のこと、嫌いなの?」
「き……っ!」
ショウ様は悲しげな顔をされている。ああ、そんな大きな目に、涙を溜めないでください。可愛いじゃないですか。
私は思い切ってショウ様の両肩を掴んだ。するとショウ様は、私を潤んだ大きな目で見上げてくる。正直その表情に惹き込まれて、唇に吸い付きそうだったけれど、耐えた。すごい。偉いぞ私。
「嫌いな訳ないじゃないですか。何を仰っているんです?」
「……ごめん」
ショウ様は肩を掴んだ私の手を取り、手のひらを見た。ショウ様をコーティングしていたチョコレートが私の手についていたので、その手を──もとい、チョコレートを、ショウ様はぺろりと舐める。
「……っ!」
その瞬間、ぞわりと全身の毛が逆立ち、私は呆気なく理性を吹き飛ばした。
「ショウ様……っ!」
「……っ、ん!」
私はショウ様の首筋に舌を這わせ、甘いチョコレートの味を堪能した。クラクラするほどのその味は、もっと、もっとと勝手に身体が求めていく。
「り、リュートっ、そこは……っ」
ショウ様の上擦った声が私の耳をくすぐった。私はショウ様の胸を執拗に舐め、チョコレートだけを溶かしていく。すると、いつも美味しそうに色付いている、桜色の胸の突起が露になった。そして反対側も同じようにチョコレートを舐め取り、指でそこを弾くとショウ様の腰が跳ねる。
「リュート……っ、ぁ……、気持ち、いい……っ!」
「いいですかショウ様?」
私はショウ様の嬌声に、完全に我を忘れて全身のチョコレートを舐めとって剥がしていった。私の舌がショウ様の身体を這う度、ショウ様は可愛らしい声を上げて私の服をギュッと掴む。
そして全身のチョコレートを綺麗に舐めとったあと、残すはショウ様のショウ様だけになった。私は夢中で硬くそそり勃ったショウ様を口に含むと、ショウ様はビクビクと全身を震わせ、私の口の中に精を放つ。
「──ッ!!」
目が覚めると、そこは見覚えのある部屋だった。
はあはあと息を切らしながら辺りを見渡すと、やはり長年使っている、私の自室だ。
「……嘘だろ?」
私は起き上がって頭を抱えた。下着の中が気持ち悪い。そして私の自室ということは、ショウ様の魔力は影響していない訳で……。
つまり、今の夢は私が見た夢、ということになる。
「あああああああああああ……」
私はベッドの上で情けない声を上げた。なんてことだ、まだショウ様の夢の中じゃなかっただけマシだろうか。
私は罪悪感に苛まれながら、ベッドから降りて下着を着替えたのだった。
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