第1章 〔ひさご〕での日々

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第1章 〔ひさご〕での日々

大阪のメインストリート御堂筋。 銀杏並木が青々と若葉を繁らせ、大きく張った枝は舗道に程良く影を落とし、さわさわと通り過ぎていく風に合わせて揺れている。 通称キタと呼ばれる梅田からミナミと呼ばれる難波までを結ぶ御堂筋の片道一方通行の車の流れは壮観な感じさえする。その両脇に、世界でも名立たる高級ブランドの店が軒を連ね豪華に店を構えている様は荘厳ですらある。 道行く人々はお洒落な服に身を包み、ショッピングを楽しみながら楽しそうに歩いている。 その間をきりっとしたスーツに身を包んだビジネスマンが、忙しそうに通り過ぎて行く。 そんな御堂筋と長堀通りが交わる所、その近くに大阪大丸の南館と北館がある。 その間を通り抜け、大阪で一番賑やかと言われる心斎橋筋を通過して、暫く行くとひと昔前の大阪ミナミの情緒を残した街に出る。 ここで暮らす人々の穏やかな温もりを感じる街、南船場と呼ばれるこの辺り一帯は、古い物と新しい物が程良く混在していて、お洒落なスナック、レストランがあると思えば、昔ながらの情緒を残したうどん屋さんや、カレー屋さんがあるという具合だ。 そんな街の一角に、「ひさご」という少し古めかしい構えだが、日本情緒漂う店がある。 形よく収まった格子戸の入り口を抜けると、腰の高さ位の竹垣や低木が落ち着いた雰囲気を醸し出し、カタンカタンと水音に交じって音を立てる猪脅しが小気味良い。 一般の人には少し入りにくそうな感じもするけれど、中に入れば何度でも来たくなってしまう様な温かな感じのする粋な小料理屋である。
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