洋子の結婚式

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洋子の結婚式

(麻耶ちゃん。欠席すると言ってたけど、ひょっとしたら来てるかも…) 一縷の望みを掛けて、そっと麻耶の姿を探してみる。 周りはみんな知らない人ばっかりで、心細くて涙が出そうになって来る。 (こんな時、あの岡西さんに会ったらどうしよう… 怖くてぞっとする) そう思うだけで、不安と緊張で体が震えて来る。 (もし、岡西さんに会ったら、必死でここから逃げて帰ろう) のぞみはそんな決心をして、結婚式が終わるまで何とか耐えなければと思っていた。  「秋山さん? 秋山さんじゃないの?」 ふっと、記憶のある声が頭の中に響いて来た。 (あっ! あの人だ! あの人の声だ) のぞみは嬉しくて、キョロキョロと見回して、声の方に視線を向けた。 「この前は送って下さって有り難うございます」 ペコペコとお辞儀をするのぞみ。それを見るINの人達の視線を感じて小さくなってしまった。 「秋山さんの会社の人は?」 木野が、くるりと会場を見渡して言った。 「知っている人の姿が無くて、心細くて帰ろうかなって思っていたんです」 のぞみは、正直に言って淋しく笑った。 (木野さんに会えて良かった!) のぞみに取って、今の木野の存在は深い山の中で神様に出会った様な気持だった。 「せっかく来たのに、料理だけでも食べて帰らないと、元が取れないよ!」 と笑いながら言って、 「あっ、それならテーブル席の配置を聞いて一緒の席にして貰おう」 「良いんですか?」 「うん。知ってる人が誰も来てないんでしょう」 「はい。でも木野さんはそんな事をして困らないのですか?」 「僕も入社2年目で、あまり会社の人との付き合いが無いし、秋山さんと条件は変わらないのですよ。一緒に行きますか」 「はい、良いのですか!」 「もちろんですよ!」 「ありがとうございます」 のぞみは、さっきまで緊張と心細さでカチカチになった心が、ほぐれていくのを感じた。 「お~い、木野。お前、えらく早く来たんだなあ」 二人が一緒に歩いていると、後ろから声を掛けられた。 「お、小西。オレは、この2,3日仕事の追い込みで泊りが続いてたからさ、今日は室長の結婚式だろう、うっかり寝てしまったらアカンと思って、朝からシャワーを浴びて早めに来たんだよ。お前は?」 「俺か? 俺は昨日会社帰りに散髪屋によって、それから帰ったんだけど、今日の結婚式の事で、何だか落ち着かなくてさ、」 「なんで、お前の結婚式じゃないのに」 木野が可笑しそうに笑いながら言った。
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