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「それはそうなんだけど、妙に緊張しちゃってさ!」
「うん。分かるよ」
「それにしても、お前は良いスーツを着ているなあ、この日の為に新調したのか!」
「ああ、これ! 課長がくれたんだよ。体形が変わって着られなくなったからって!」
「良かったな! 似合ってるよ」
「ありがと!」
「それよりお前、徹夜続きで大丈夫か? 体壊すなよ」
「好きな事やらせてもらってるから~ 大丈夫だよ。体の方はいたって丈夫だし」
木野は、少しはにかむように笑って言った。
(木野さんて、笑ったら可愛いいんだ!)
そう思って、木野の姿に見とれていると、いきなり話を振られた。
「え~と、こちらの方は?」
「新婦さんの友達の秋山さん。俺の寮の近くの人で、偶然ここで会ったので」
「ああそうなんだ! 小西と言います。宜しく」
ぺコリと頭を下げられたので、のぞみは慌てて頭をペコペコと下げて、
「宜しくお願いします」と、言ってしまった。
(わ~ どうしよう。はじめましてと言うつもりだったのに……)
のぞみは恥ずかしくて、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
「何か、お見合いみたいだな!」
と木野が言うと、小西が「可愛い人だね」と笑って返した。
披露宴の会場になっているホールは、さすが一流のホテルだけあって、まるで中世のお城に来たような豪華さだった。
「それにしても広いな。これじゃ自分がどこに座るのか分からないよな」
木野が、広いホールに並べられたテーブルを見ながら言った。
「お前はスピーチをするから、前の方じゃないのか?」
小西が心配そうに、ホールを見渡して言った。
「前の方は親戚の人達だろう……」
そう言いながら、木野が席次表を広げた。
「あ、あそこのスタッフさんに、席の変更できないか聞いてくるよ。秋山さん、知り合いが来てないんなら、僕らといたほうが気が楽だと思って」
「わぁ! いいんですか? 心細かったんです。有難うございます」
「そうか、じゃ俺も一緒に行く」
「うん」
スタッフの人は、木野の話を聞いてすぐに対応してくれた。
「彼女と同席されるのは、どの様な方達ですか?」
「御新婦様の御親戚の方の様でございますね」
(会社の人が誰も来てないからだわ)
のぞみはこの言葉を聞いて、帰りたくなってしまった。
誰も知り合いが無くて、洋子の親戚の人達の中でひとり座っているなんて考えるだけでも恐ろしくて涙が出てきそうになった。
「すみませんが、彼女の席を僕の隣に移して頂く事は 出来ますか」
「はい、畏まりました。ではその様に……」
ホテルの人は、丁寧に頭を下げると離れて行った。
「有り難うございます」
嬉しくて、それ以上の言葉が出て来なかった。
本当はいっぱいお礼を言いたかったのに……
(私、場違いな場所に来て、木野さんに迷惑ばかりかけてる。ごめんなさい)
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