洋子の結婚式

3/9
前へ
/188ページ
次へ
「それにしても、新婦さんの会社の人が一人も来てないなんてどうかしてるよ」 小西の何気なく言った一言が、のぞみの胸に突き刺さる。 洋子を庇う言葉が見つからずに、うろたえてしまった。 「勤めていた会社を早期に退職して、結婚の準備をしていたらしいから、前の会社の人が来ないのも無理の無い話だと思うよ」 「やけに詳しいんだな」 「いや、室長がそう言ってたから」 木野はのぞみに笑いかけながら、小西をお茶に誘った。 「まだ、時間があるから、ちょっと珈琲を飲みに行かないか?」 「行こう、行こう!」 のぞみは二人について、ホテル内にある洒落た喫茶店に行った。 「何か腹へったなあ~、モーニングにする?」 木野は二人を交互に見て訊ねた。 「あったり前だろう。何でお前がモーニングで俺達が珈琲だけって事ないだろう~」 「ねっ」という様に小西が笑いかけて来たので、のぞみもにっこり笑って頷いた。 (そう言えば、木野さんに会って安心したせいか、私もお腹空いて来ちゃったなあ) ようやく、のぞみの心に少し余裕が出て来たせいか、さっきまで、一人ぼっちの淋しさに耐えていたのがまるで嘘のような感じになってきたのだった。 「とても、おいしいです!」 産まれて初めて食べるホテルのモーニングに嬉しくなって、そんな事を言ってしまった。 「良かった! 気に入ってくれて」 木野が優しく答えてくれた。良い香りの珈琲と柔らかなパン、そしてサラダ、そのどれもがおいしかった。 (木野さんは麻耶と一緒に、ここに来たのだろうか……) そんな事がのぞみの頭をかすめる。 (来た事があるに決まってるのに、とても気になってしまう) 二人は恋人同士なんだから、当たり前の事なのについ、楽しく珈琲を飲んでいたんだろうな、なんて思ってしまう。 「そろそろ、式場の方に行った方が良いのかな?」 小西が、腕時計を見て言った。 「そうだね。じゃあ、移動しようか!」 木野が伝票をさっと持って先に歩き出した。のぞみは急いで立ち、お財布からお金を出して木野に渡そうとすると、小西が笑って言った。 「良いんですよ。お金なんか、木野のおごりだから」 「でも?」 「遠慮しないで、ここは任せてくれたら良いから」 小西の後を繋ぐように、会計を済ませた木野が返事した。 「さっ、式場に行って、新婦さんを励ましてあげなくちゃ!」 「はい!」 式場に入ると、3人は一番後ろの列の椅子にのぞみを真ん中にして座った。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加