洋子の結婚式

7/9
前へ
/188ページ
次へ
「私は洋子ちゃんと同期入社の、秋山のぞみと言います。洋子ちゃんはお嬢様学校で有名な短大を卒業して、私は地元の高校を出てアイワ電子に入社しました。 入社したその日から洋子ちゃんは、お姉さんの様に私を助けてくれて、私もその洋子ちゃんの優しい心に、ずっと甘えて来ました。 私たちの勤めていたアイワ電子という会社は300人弱の小さな会社ですが、それだけに家族的で温かい雰囲気のある会社です。洋子ちゃんは総務課、私は経理課に配属されましたが、事務所はワンホールでしたので、ミスをしてしょんぼりしたときなんか、洋子ちゃんの方を見ると必ず、にっこり笑って「がんばれ!」って感じで、見つめ返してくれました。 そしてお昼休みになると飛んで来て、何があったのか心配して聞いてくれました。今は一人ぼっちで洋子ちゃんのいない会社で働いています」 のぞみが、そっと零れる涙を掌で拭こうとした時、そっと寄り添う影が…… 「のぞみちゃん。有り難う」 洋子の母だった。母はぽとぽと落ちる涙を拭きながら後の話を続けてくれた。 「わたしものぞみちゃんと一緒です。明日から長年連れ添った主人と二人でつつましやかに暮らして行かなければなりません。これからの幸せと言えば洋子に子供が出来て、孫を見せに来てくれる事ですね。私達夫婦はその成長を支えるのを楽しみに生きて行きたいと思っています」 洋子の家族が、一斉にこちらを向いてふたりの話を聞いてくれていた。 式場は変に静まり返って、二人の次の話を待っている様だった。 「のぞみちゃんのお陰で、洋子の今までの人生はとても幸せだったのだと分かりました。これからは旦那様を支えて、折に触れ感謝して貰える様な良き妻になれるよう努力して欲しいと思います。洋子の母として結婚式に列席して下さった皆様に、この場をお借りしてお礼の言葉を述べさせていただきたいと思います。本日は本当に有り難うございました」 洋子のお母さんは深く頭を下げたまま、しばらく顔を上げなかった。涙がぽたぽたと留め袖の前で重ねた手の甲に、一粒二粒と落ちるのを見て、のぞみはその美しさに心が熱くなるのを覚えた。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加