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「その時に、住み込みの女性求むの色紙に書かれた文字を見たのです。その時は母も元気だったので、一緒に胡桃を連れてここに、食事に来れたらいいなと思ってたんです」
「それで、【ひさご】に来てくれたのね。有り難うのんちゃん。これから二人で頑張って行こうね。そんな思いで来てくれたのに、酷い言い方をしてごめんなさい」
お母さんはそう言って、のぞみに謝ってくれた。
「そんな、 当たり前の事です」
「でも、ショックだったでしょう」
「はい、行く所は【ひさご】以外に考えていなかったから、どうしたら良いのか途方に暮れてしまいました」
「私もびっくりしちゃって、なんせ口の悪いのは生まれつきで、言い出したら止まらないものだから、ほんとに悪かったわ。私もこれでのんちゃんに頭が上がらないわね」
「まあ? 何を仰るんですか。お母さん。私達親子を助けて下さって、どんなに感謝してもしきれない気持ちでいっぱいですのに」
のぞみはお母さんに深く頭を下げると、すぐに店の裏にある箒を取って掃きだした。
店を閉めた後、すぐにお掃除を始めたのぞみに感心して、女将さんが言った。
「のんちゃん、掃除は後にして、私らもお腹空いたから御飯にしよう」
「はい!」
「今日は、何時もよりお客さんが多くて、ちょっと疲れたわ。何かおいしいもん残ってるかしら」
お母さんは、首をクルクル回しながら、右手で握りこぶしを作って左肩を叩いた。
のぞみが、そっと肩に手を置いて揉むと、
「ああ、極楽、極楽。ありがとね」
と言って、喜んでくれた。
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