洋子の結婚式

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「お母さん」 洋子の母を気遣う様に、そっとハンカチを渡しながら、のぞみは優しく声を掛けた。 「のぞみちゃん。ありがとう」 二人の姿に式場のあちこちから拍手が聞こえてきたかと思うと、それはすぐに大きな拍手へと変わって行った。 「最後に、洋子ちゃんの友達として、加納さんにお願いを聞いてほしいです」 のぞみの言葉に式場の空気が、ざわざわと揺れた。 「加納さん。洋子ちゃんを大事にしてあげて下さいね。宜しくお願い致します」 加納に向かって声を掛けると、正面雛段の上からしっかりと頷いてくれたのが見えた。 のぞみは加納に会釈してから、マイクに向かって話し始めた。 「洋子ちゃんは淋しがりやで心配症です。悲しい事がある時ほど無理に明るく笑います。それに洋子ちゃんは自分以上に、加納さんの事を大切に思っています。これは毎日、毎日、加納さんの事を大好き、大好きって聞かされてきた私が言っているのですから、間違いありません」 のぞみがそこで一呼吸置くと、また大きな拍手を貰った。 「どうぞ、お二人で幸せな家庭を築いて下さいね。これで私のお祝いの言葉と…」 胸がいっぱいになって、言葉の出なくなったのぞみに変わって、洋子の母が言葉を繋いだ。 「私の娘は何と言う果報者でしょう。こんな良い友達がいて、そして今、優しい旦那様に守られて、これ以上の幸せがどこにあると言うのでしょうか。親としてどう感謝の気持ちを伝えればいいのか分からない位嬉しいです。貴重なお時間を頂いて、私達の話を聞いて下さり本当に有り難うございました」 のぞみと洋子の母はマイクから一歩下がり深く頭を下げた。 二人の姿に拍手が鳴りやまない。 娘を送り出す母の嬉しいけれど淋しい気持ちと、仲の良い友達同士の他愛無いやり取りが共感を呼んだのだろう…… 洋子の母はのぞみを支える様に、木野達の待つテーブルまで付き添ってくれた。その姿にまた、拍手の嵐が起こったのだった。 木野と小西は洋子の母に挨拶した後、自分の席に戻って行くその後姿を見ながら、のぞみに声を掛けた。 「お疲れさん!」 「頭がボウ~っとして、体がまだ宙に浮いているみたいです。わたし、ちゃんと言えてましたか?」 「いや~、なかなか、大したものだよ。二人のスピーチのお陰で先にした木野のスピーチの影が薄くなってしまったって感じだね」 小西が木野とのぞみを交互に見て笑いながら言った。 「ほんと、初めてと思えない位しっかりしていたよ」 と、木野が言えば、小西も、「ほんと、ほんと、なかなかのもんだったよ」と続けた。 「私、洋子ちゃんにちゃんとおめでとうって言えたか、とっても心配です」 「それは大丈夫! 二人でしっかり聞いていたから」 木野と小西は目で頷き合いながら、にこやかに笑って言った。
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