洋子の結婚式

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「秋山さんが、途中で言葉に詰まって困っていた時、こいつ、俺、ちょっと行って来るよって行きかけてたんだよ」 「まっ! 本当ですか」 信じられないくらい嬉しかった。 (木野さんが、私の為に……) のぞみはその優しさに、胸が熱くなってくるのだった。 「ほんとだよ、新婦さんのお母さんが行ってくれてなかったら、こいつが走って行ってたと思うよ」 「有り難うございます。私が至らないせいで」 「誰だって、いきなりスピーチなんて言われたらまごついてしまうよ。まして誰も知らない人ばかりの中で、マイクの前に立つだけでも偉いと思ったよ」 「ほんと、木野のいうとおりだ。秋山さんは立派だったよ。拍手もこいつより沢山もらったしね」 その言葉に、木野は小西の頭をコツンと叩いた。 「痛てぇ~」 と言いながら、小西も木野の頭をコツンと叩き返した。 「何か良い事あったのかな!」 「えっ?」 その声に振り向くと、新郎新婦の加納と洋子がいた。 キャンドルサービスの為に、雛段から降りて来たのだった。 「のぞみ、ごめんね。大変な目に合わせちゃったね!」 「ううん。ちゃんと出来なくてごめんね。洋子ちゃんの大切な日なのに、しっかりしなくちゃいけないのに……」 美しいピンクのドレスをまとった洋子が、そっとのぞみを抱き締めた。その姿に廻りの人達が感動して拍手を送ってくれた。 「木野さん、のぞみの事お願いします」 洋子はそう言って、左手にブーケを持ちかえて胸に当てると、王女様がする様にドレスを右手で軽く摘まんで、厳かにお辞儀をした。 「よ、洋子ちゃん、何を言ってるの!?」 いきなりの洋子の言葉に、のぞみは口をパクパクとさせて、言葉が出ない。 (麻耶のことだって分からないし、木野さんの気持ちもあるし、それに私じゃ釣り合わないよ) 「のぞみはとっても良い子です。もし良かったらお気に止めてやって下さい」 洋子の言葉は本気だった。 「のぞみ、次はのぞみの番よ! このブーケを受け取って」 「いいの?洋子ちゃん。こんな美しいブーケを貰っても」 のぞみは目を丸くして、嬉しそうにブーケを受け取った。 「次は、のぞみが幸せになる番よ!」 洋子はそう言って木野を見た。「どうなの」という様に…… 木野は、嬉しそうにブーケを抱き締めているのぞみを見つめて、洋子に頷いた。
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