洋子から見た二人

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岡西の話が出ると、みんな騒然とした感じになったが、のぞみは嬉しかった。岡西が来ていないと思うだけで、心が明るくなって来るのだった。 「そうなんですか? 私は主人の結婚式には必ず来ると思っていましたわ」 「そうでしょうね。普通の人ならそうかも知れませんが、岡西に限って礼儀とかいうものは全く持ち合わせていませんので、この機会に付き合いは辞めた方が良いと思いますよ」 「そうだったんですか?」 「こいつも寮の部屋が隣というだけで、いろいろ迷惑を掛けられているみたいですよ」 「ええ!」 洋子は呆れたと言わんばかりに、驚いて言った。 「見かけは大人しく見えるので、良い人間かなと思って勘違いしてしまうのですが、少し深く付き合うと、強情で人を思いやる心なんて全く無い嫌な奴ですよ。木野、お前、岡西にだけは気を付けろよ。こんな目出度い席で言うのも何だけど、岡西には知らん顔をするぐらいでちょうど良いんだから」 そう言って、小西は口をつぐんだ。 のぞみにとって、小西の忠告はとても有難かった。あの合コンの日、失礼な帰り方をした事がずっと気になっていたから…… だけど、岡西という名前を聞くだけで、ねっとりした目でじっと品定めをするように上から下へと視線を動かして、のぞみを見ていた事を思い出し、一瞬身震いしそうになった。 「室長、おめでとうございます!」 いつの間にか、周りに集まってきた職場の人から口々にお祝いの言葉を貰って、洋子と加納はとても嬉しそうな笑顔になった。 岡西の話になって、目出度い結婚式の会場なのに、暗~い雰囲気になって行くのが心配だったのぞみは、少しほっとした。 (加納さん、職場の人にとっても信頼されているんだ! 洋子ちゃん、良い人と結婚出来て良かったね! これからの一生加納さんと幸せに暮らして行ってね) のぞみは心から、洋子の幸せを祝福する事が出来た。そして、手に持ったブーケに誓った。 (私も、幸せになれるよう頑張ります。洋子ちゃんの様に…) 「もう~ 木野の所で止まって、こっちに来てくれないから!」 「ほんと、ほんと!」 「ちょうど、部署のみんなも揃っているみたいだから、室長と美しい奥様に乾杯しようよ」 「おう、それが良い! 俺が部署代表で音頭を取らせて貰うよ!」 小西の声に、みんなは一斉に高々とグラスを上げると口々に言った。 「室長、御結婚おめでとうございます」 「有り難う!」 加納さんが、そっと洋子の肩を抱いて嬉しそうに礼を言うと、 「乾杯!」 「乾杯!」 と、みんなの声は怒涛の様な大きなうねりになって、式場全体に「乾杯」の波が広がって行った。 のぞみも、木野が持たせてくれたグラスを、みんなと一緒に高々と挙げて、洋子と加納の結婚を祝福した。 (結婚って良いな! 洋子ちゃん幸せになってね! 私、祈ってます!) 美しいドレスを着た洋子の姿を見つめていると、自分にも幸せが訪れる予感がしてくるのぞみだった。 結婚式は、良い雰囲気のまま、滞りなく終わった。
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