お母ちゃんとケーキ

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「とても格好良かったよ! その後、私も洋子ちゃんの友人代表でスピーチしたんよ」 「うそ、のぞみが」 「木野さんもがんばってって、言ってくれたの。あんな沢山の人の前で話すなんて産まれて初めてだから、凄く緊張しちゃった」 「お母ちゃんも聞きたかったわ!のぞみのスピーチ」 「やめてよ、お母ちゃん。お母ちゃんが聞いてると思うと、緊張して何も言えなくなっちゃうわ」 「だって、のぞみのスピーチなんて一生聞く事ないじゃない。聞きたかったなあ」 「変なお母ちゃん。でもね、話してる途中で、頭が真っ白になって、次の言葉が出て来なくなった時、洋子ちゃんのお母さんが、そっと私の側に寄り添って話を続けて下さったの」 「まあ、優しいお母様なのね!」 「うん。嬉しくて涙が出ちゃった」 「良かったね!」 「うん! とっても良い結婚式だったよ!」 「会社の人達は?」 「誰も……」 「会社の人が誰も来ないなんて可笑しいんじゃないの、洋子ちゃんの職場の上の人も?」 「うん。来てなかったように思う」 ひょっとして、自分が気付かなかっただけかも知れないと思って、あやふやな返事をした。 「そうだったの。人って意外と冷たいものなのね。3年も一緒に働いてきたというのにね」 のぞみも、母と同じ考えだったので、少し暗い気持ちで頷いた。 「洋子ちゃん、淋しい思いをしていたんじゃないの? 旦那様のお知り合いばっかりじゃ」 「そんな事ないと思う。幸せそうだったもん。だって綺麗な衣装を着て幸せそうに笑っていたもの。あっ!そうだ」 のぞみは、そう言うと同時に、慌てて玄関の方に走って行った。 「お母ちゃん、これ見て!」 「まあ、ブーケじゃないの?」 「綺麗でしょ! 洋子ちゃんが私にってくれたの」 「ほんとに綺麗ね! 初めてブーケの本物を見たわ」 「私も!」 のぞみは、洋子がお姫様の様なお辞儀をして、木野に「のぞみの事を宜しくお願いします」と言ってくれた事を母に伝えようしたが、それは何故か口にする事が出来なかった。 (本当はお母ちゃんに1番に言いたかった事なのに) 洋子が全身全霊を掛けて、木野さんにお願いしてくれた姿が目の前に浮かんで来て、嬉しさで涙が出て来るけど、 (でも、駄目だよ。木野さんはK大を出てそれも大学院まで行って、その上IN電気では、たった2年で主任になった人よ。私とでは身分が違いすぎるもの) そう思いつつも、のぞみは木野の人懐っこい笑顔を思い出して、ひょっとしたらと思ってしまうのだった。
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