お母ちゃんとケーキ

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「ねえ、のぞみ!」 「どうしたの、お母ちゃん」 ブーケを持った母が、思い詰めた様な声を出して言うものだから、のぞみも気になって母に問いかけた。 「ほら! ブーケの言い伝えというのかな、花嫁さんからブーケを貰った人は次に幸せになれるって、のぞみ、聞いた事ない?」 「聞いた事あるけど、それは花嫁さんが後ろ向きになって、投げたブーケを受け取った人の事でしょう」 「うん?」 「私の場合は、IN電気の人ばかりの中で、私しか知ってる女の子がいないから、手渡しで洋子がくれたの。だからお母ちゃんが思ってるのとは大分違うよ」 「そうなの」 母はしょんぼりして、大事にブーケを持つと透明の花瓶を出して来て、そっと入れた (ごめんね、洋子ちゃん。本当は違うのに……。木野さんに私の事をお願いしてくれて、祈りのこもったブーケなのに、でも、お母ちゃんにとっても言えないわ) 母に当ての無い希望を抱かせたくないのぞみは、悪いと思いながらも洋子の事は言えなかった。 「そうだよね。お母ちゃんね、のぞみが木野さんと言う人とお付き合い出来たらって、つい、思ってしまって、可笑しいよね」 「無理、無理、そんな事考えないで、お母ちゃん」 そう言ったが、返事をするのぞみの方が辛かった。 (私だって、木野さんの事が好き。大好きだよ。でもね。何もかも違うんだもの。お母ちゃん。木野さんは私達親子からはとっても遠い人なんだから) 「お母ちゃん。お茶冷めちゃったよ。入れ替えて来るね」 のぞみは気を取り直すと、必要以上に明るく言った。 「お腹も空いて来ちゃったな。お母ちゃん何か食べようよ」 その日は、結婚式の話で盛り上がって、軽く焼き飯を作って夕ご飯を食べた後、寝る事にした。 そして、次の日、会社に行った時が大変だった。 「ねえ、超一流のホテルの結婚式って、どんな感じだった?」 「小塚さんの彼氏って、IN電気の人だったんだよね」 「はい」 のぞみは少し緊張して答えた。 日頃あまり話した事の無い人達が、いきなり親しげに声をかけて来たからだ。 「ねえ、教えてよ~ 結婚式とか披露宴の事とかさ?」 「お料理は豪華だった?」 「IN電気の人って、どんな人ら?」 と、次々に聞いてきて、どう返事したらいいのか困ってしまった。 洋子の結婚式は女子社員には、とても気になるものだった様だ。 「小塚さんて、お金持ちだったんだね。あんなとこで結婚式を挙げるんだもの。旦那になる人は一流企業に勤めてるし、聞いた話ではかなりのイケメンらしいわよ」 「ふ~ん、うらやましいな!」 あれこれ聞かれて大変だったけど、「御祝儀はいくらしたの」と聞く人がいなかっただけ、ほっとした。 「小谷さんも、行ったん?」 その一言に、のぞみはドキッとした。 「用事が出来て、来れなかったんです」 「用事って、あんたら三人いつも一緒にいてさ、凄く仲良かったじゃない?」 「ほんと、何が何でも行かなくちゃいけないのにね」 (もう、どうしよう?) のぞみが困っていると、ちょうど勤務時間が来たので、みんなそれぞれの職場に散って行った。
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