帰り道に木野さんを見つけた!

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帰り道に木野さんを見つけた!

会社からの帰り道、母に頼まれた買い物を済ませて、家に向かっていると、難波駅のホームを駆けあがって行く木野の姿を見つけた。 (あっ、木野さんだ!) 姿を見たからといって、追いかけて行くのも可笑しいし、 (本当は、必死で走って行きたいんだけど…) 何だか急いでる様に見えるし。 (階段を2,3段飛ばしで駆けあがって行くんだもの) なんて、急ぎ足で階段を上がりながら、いろいろ考えている間にホームに着いた。 ”橋本行き急行がまもなく発車致します。御乗車のお客様は…“ のぞみはアナウンスの声に導かれるように、もしかしたら木野が乗っているかも知れないと思って、1番ホームに止まっている電車に、急いで乗った。 「あっ!」 (やっぱり、いた!) のぞみは嬉しくて思わず、小さく声をあげてしまった。ドア際で単行本を読んでいる木野を見つけたからだ。 視線に気付いたのか、本から目を離してのぞみに気付くと、にこやかに笑いかけて来た。 「今、帰り?」 「はい!」 「僕も…」 いっぱい話したい事があるのに、何故か言葉が途切れてしまった。 「お仕事、忙しかったんですか?」 「ここのところ少しね」 木野は背の低いのぞみに合わす様に、少し屈んで返事した。 「さっきね、あなたを見つけて走って来たんです!」 「そうだったんだ。気付かなくてごめんね」 「ううん。びっくりしました。階段をピョンピョンと2,3段づつ駆け上がっていくから」 「あはっ、それは悪い所を見られちゃったね! これからは気を付けなくっちゃ!」 「ごめんなさい、変な事を言って」 「変な事ないさ!」 (私、何言ってんだろう。折角会えたのに、もっと大事な事聞かなくちゃいけないのに) 「本当は、結婚式の時有り難うございましたって言いたかったのに。変な事言ってごめんなさい」 のぞみは、木野に会う事が出来た嬉しさで、頭が混乱してしまったのだ。 「そんな、お礼を言われる様な事はしていないのに」 「そんな事はありません。私、一人ぼっちで不安な時に助けて頂いて、とても感謝しています。いっぱいお礼が言いたくて、木野さんをずっと探していたんです」 「僕を?」 「はい!」 「有り難うございましたって、いっぱい言いたくて」 「それは、嬉しいな。秋山さんがそんなに感謝してくれてたなんて」 難波駅で満員だった乗客が、堺東駅を過ぎる頃には半分くらいになっていた。二人は空いた席に座った。
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