帰り道に木野さんを見つけた!

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「秋山さんは、いつもこの時間に帰るの?」 「はい。ほぼ、決まった様にこの急行か次の準急に乗って帰ります」 「そうなんだ」 「木野さんは?」 「僕? 僕はバラバラかな。遅い時もあるし、今日みたいに早く帰れる日もあるし…」 そんな取りとめの無い話をしている間に、電車は河内長野駅に着いてしまった。 「木野さんは、明日もこの時間にお帰りですか?」 「明日? 明日はどうだろう?」 そんなたわいない話をしている間に、二人の分かれ道に来た。 「じゃ! 今日は僕が見送るから先に行ってくれる」 「私の家すぐそこなんです。だから私に見送らせて下さい」 「じゃ、次会った時は君に見送って貰うから、今日は僕に見送らせて!」 「はい!」 のぞみは、少ししょんぼりして歩き出した。すぐに着いたので深々と頭を下げて家の中に入った。 (私、木野さんが家に着いた所を見たいな!) のぞみはそう思って、玄関でパタパタと靴を脱ぐと2階の窓を大きく開け、木野の部屋に灯りが付くのをじっと見つめていた。 「ただいま!」と言うなり、2階に上がっていくのぞみにびっくりして、母が追いかけて来た。 「どうしたの?」 窓を開けて1点を見つめている娘の姿に、「はは~ん」と何となく感じて、静かに階段を下りて行った。 「ごめんね、お母ちゃん。さっき木野さんに会って部屋の場所を教えて貰ったの、それで、無事に帰られたかなと思って見ていたの」 のぞみは、母に悪いと思い追いかけて言った。 「えっ! そうなの、家から見えるの?」 「うん」 「お母ちゃんも見たい!」 母は木野の事を聞くと、のぞみを2階に押し上げる様にして、自分も付いてきて言った。 「どこどこ? どこの部屋?」 「ほら、IN電気の一番手前の建物の二階の右端の部屋」 「あら、まだ帰ってない。可笑しいね?」 「うん?」 もう灯りが付いても可笑しくないのに、全然その気配が無い。 「どうしたのかしら?」 不安になって来る。 「もしかしたら、のぞみを送って下さった後、晩御飯の食材を買いに行ったのかも」 木野の部屋に灯りが付かないというだけで、心配で心配で堪らなくなって来る 気になって、木野の部屋から目を離す事が出来ない。 「あっ、点いた!」 「良かったね! のぞみ」 「うん!」 急に元気になった娘を見て母はほっとするのだった。 出来れば、何とか木野さんという人と添わせてやりたい。のぞみは雲の上の人だというけれど、こんなに好いているんだもの。 話を聞けば結婚式の時も、それに今日も家の近くまで送って下さったそうだし、娘に好意を持って優しくしてくれてる様にしか思えてならない。
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