幸せの始まり

1/4
前へ
/186ページ
次へ

幸せの始まり

それから一月程たった日曜日、 のぞみは母と一緒に、駅前のショッピングモールに買い物に来ていた。 前に一度、近くのコンビニで偶然、木野に会ってから、会社の帰りにひょっとしたら会えるかと、それとなく、帰り道や電車の中を探してしまうのだったが、今ではそれが日課の様になって、母と歩いていても木野の姿を自然に追いかけていた。 「のんちゃん。今日のお昼は奮発して、レストランで食べよう」 「うん。お母ちゃんは何が良い」 「何にしようか?」 と、迷っていると、後ろから声を掛けられた。 「こんにちは!」 「あっ、こんにちわ!」 木野だった。 (わぁ~ 恥ずかしい。どうしてこんな時に会うの?) それもファミレスの前で、何を食べようかなとあれこれと品定めしている時になんて、のぞみは、嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にして挨拶した。 「お買いものですか?」 「き、き、木野さんは?」 「僕?」 木野は片えくぼを作って、笑いながら尋ねた。 「はい」 「久し振りの休みだから、食料の買い出しに…」 「わ、私達もです。いろいろと買い出しに、ねっ!お母ちゃん」 (わ、わ、わ、どうしよう。木野さんに母の事をお母ちゃんなんて言っちゃった。良い歳をしてアホな子だと思われるだろうな) 母が傍にいるせいで、いつも以上に慌てている自分に焦ってしまった。 母が木野にペコペコして、笑顔で見ているものだから余計に緊張して言葉が出て来ない。 「お母様ですか?」 木野が母に頭を下げながら挨拶した。 「はじめまして、木野省吾と申します」 木野の言葉に母が緊張して言った。 「秋山のぞみの母で御座います。娘がいつもお世話になっております」 (何だか可笑しいよ。お母ちゃん。そんな言い方をしたら、木野さんが困るでしょう。お世話になっておりますなんて) のぞみは焦ってしまって、意味も無く木野にペコペコと頭を下げた。 「今からレストランで、のぞみとお昼ご飯を食べようと思っていたんですが、御一緒にいかがですか!」 「有り難うございます。御一緒させて頂いて良いのですか!」 「はい。今ね。何を食べようかとのぞみと一緒に悩んでいた所なんです」 (もう、お母ちゃん辞めて、ファミレスの事をレストランなんて言うの、別に間違いじゃないけど、木野さんは私達と違ってもっと良い所に行ってる人なんだから、恥ずかしいよ) 「ここに来た時はよくこのレストランで食事するんですよ」 母は嬉しそうに言って、先に中に入って行った。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加