幸せの始まり

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残業がないときなど“今日は早く帰れるから、難波で待ち合わせて一緒に帰らない?“ とメールをくれる。 一緒に待ち合わせて家に帰れるというだけで、心がウキウキして来る。 「のんちゃん、何だか嬉しそうね。良い事あったんなら私にも教えろ!」 と言って、瞳が後ろからはがいじめして来る。 「ほら!」 スマホを見せると、瞳は嬉しそうな顔をして 「良いな! 恋するって。御馳走様!」 なんて言いながら、軽く体でリズムを取りながら自分の席に戻って行った。 6時になると、急いで会社を出た。難波駅まで15分。少し急いで歩いていると、向こうから、木野が歩いて来るのが見えた。のぞみはその姿を見ると、幸せな気持ちになって手を振りながら木野の元へと駆けて行った。 「わあ! 迎えに来てくれたんだ!」 「うん。高島屋の入り口にいなかったから、こっちかなと思って、ほら」 木野が見せてくれた、スマホを覗くと、のぞみの会社の方角を示すナビが出て来た。 「あ! ほんとだ!」 木野といると、どんな話でも楽しい。 会社であったことや、友達の瞳の事を聞いて貰うのが嬉しかった。 「今日は早く帰る事が出来たんですね!」 「うん。ちょうどうまく区切れたから、寮に帰って寝ようかなっと思ってのんちゃんは?」 この頃、のぞみの事を「のんちゃん」と呼んでくれる。それだけでも木野の事がう~んと近くなったようで嬉しくなってくる。 それは、木野に誘われて中之島公園に行った時の事、水晶橋の側を歩いていたら木野が笑いながら言ったのだ。 「のんちゃん、行きたい映画とか場所があったら言ってくれる。次の土日はしっかり休みが貰えそうだから!」 「本当に!」 「うん」 「どこに連れてって貰おうかな」 「どこでも良いよ! 君の行きたい所なら」 「木野さんは行きたい所ありますか?」 と話ながらも、初めて「のんちゃん」と言われた事の方が、数倍嬉しくて心が弾んでくる。 付き合って暫くなるのに、いつまでも秋山さんじゃ可笑しいと思って、無理にのんちゃんと言ってくれた様な感じではなくて、ごく自然に「のんちゃん」と言われた事がピョンピョンと跳びたくなるほど嬉しかった。 「行きたい所?」 「はい!」 「行きたい所って聞かれても、どうなんだろう?」 のぞみの問いかけに、木野は本当に困っている様子だった。 「海とか山とか」 「考えて見れば、今までどこにも行った事が無い様な気がするなあ?」 「友達同士でもですか?」 「そうだね。友達が出来てもみんなコンピュータが好きな人間ばかりだから、研究室に閉じこもって、ああでもない、こうでもないなんて話ばかりで、海や山に行こうなんて誘ってくれる気の利いた奴が一人もいなかったから」 「……」 思いがけない返事が来て、のぞみは返す言葉が出て来なかった。
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