木野さんがうちに来る?

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それから、朝の出勤時たびたび会うようになった。 「お早う!」 「お早うございます!」 木野の様子から、のぞみの来るのを待っていてくれていた様な気がする。 「あの~ もしかしたら私を待って……?」 「うん。あの、さ、急だけど、今日、君の家にお邪魔してもいいかな?」 「え? 今日ですか?」 「うん」 急なことで、のぞみは驚いて固まってしまった。 「ダメかな?」 木野が困ったように笑うので、のぞみはドキッとした。頬が熱くなるのがわかる。 (木野さんが来てくれたら、お母ちゃんもすごく喜ぶだろうな) 「はい! あの……どうぞ、あの、古い家でびっくりするかも……」 いつもと違う木野の様子に、少し、緊張しながら返事した。 「待ち合わせはどこが良いかな?」 「いつもの所はどうですか? 高島屋の入り口、戎橋から真っ直ぐの所の~」 「うん。じゃあ、そこで! 少し遅れても待っててくれる?」 「はい!」 満員電車の中で他の人と接触しない様に、さり気なく庇ってくれる木野の優しさが嬉しかった。 (私ってほんとに幸せ!) 今日の通勤時間はのぞみにとって夢の様な時間だった。電車はまもなく滑る様に難波駅のホームに入って行った。 「あっ、難波だ。君の会社はこの近くだったね!」 「はい!」 のぞみの会社は、御堂筋の方を表とするなら、難波駅の裏側にあるという事になる。 「じゃあ! 僕は…」 そう言って木野は、大阪メトロに行く地下道に入って行った。 ほんとなら木野の勤め先は本町だから、南海高野線の中百舌鳥で乗り換え、大阪メトロで本町に行く方がスムーズに行けるのに、自分の為に難波駅方面の道を選んでくれたのだと思うと、木野の温かさに心が熱くなるのだった。
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