木野さんがうちに来る?

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(私の家に来るって、いったい何の話なんだろう?) ひょっとして結婚の話とか! なんて頭をかすめたけれど、まさかそんな事は無いだろうと心の中で打ち消した。 でも、気になって気になって、一日中仕事が手に付かなかった。落ち着かない時間を過ごして、退社時間になったのを見定めてから、すぐに会社を出た。 のぞみは木野よりも早く行って、待っていたい気持ちが先に立ち早足で歩いていた。 (あれ?) 向こうから、木野が歩いて来るのが見える。のぞみに気が付いたのか嬉しそうにこちらに向かって駆けて来る。 「会社、早く終わったんですね!」 のぞみは嬉しくて木野に駆けよりながら、声を弾ませて言った。 「うん!」 「私を迎えに?」 「うん。なんか、待っているよりも早いかなと思って」 木野は笑いながら言った。 のぞみは時々木野が見せる子どもっぽい仕草が、とても好きだ。 「お母さんへのお土産には、どんな物がいいのか教えて貰おうと思って……それで」 「母の好きなもの?」 「うん!」 木野はいつもより、声が弾んでいる様に思える。 (家に来るって、いったいどんな話なんだろう?) と、気にはなったがのぞみは何も聞かなかった。 「母が1番好きなのは、鶴屋八幡の百楽という最中なんです」 「じゃ、それにしよう!」 「でもね、日頃、私が買って帰ったら怒るんです。勿体ないってからと言って」 「そんなに高いの?」 「はい」 のぞみがにっこり笑って言うものだから、木野は心配そうな顔をして聞いた。 「1個、1万円とか」 と笑いながら、悪戯ぽく片えくぼを作った。 「まさか~ おいしさはそれくらいあるでしょうけれど」 「じゃあ、それに決めた!」 「とっても喜ぶと思います。父が初めて母の家を訪れた時 、鶴屋八幡の最中をお土産に持ってきてくれたんですって、今でも母は父の命日が来ると百楽をわざわざ難波まで買いに行くんですよ」 「そうなんだ。お土産一緒に見立てて貰って良かったよ!」 木野はのぞみを見て、少し照れたように笑いながら言った。 「実は今日、僕ものんちゃんをお嫁さんに下さいと、お母さんにお願いしに行くんだよ」 「え!」 のぞみは驚いて木野を見上げた。 「昨日の夜、お母さんが寮に来られて、君を僕のお嫁さんにと言って下さって」 「まあ、母がそんな事をごめんなさい」 のぞみは恥ずかしくて泣きそうになってしまった。
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