母の意外な行動

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母の意外な行動

のぞみの母は控えめな人だ。その母が一人で木野の寮を訪れ、娘の為に結婚のお願いをするなんて思いもよらなかった。 (まさか、母がそんな思い切った事をするなんて) 信じられない母の行動に驚きながらも、よほど木野さんの事を気に入って、思いあまっての事だろうと思うと、心が痛む。 「母が迷惑をかけて……すみません」 のぞみは母のしたことで、穴があったら入りたいほど恥ずかしい気持ちになった。 「ううん。僕としてはお母さんの申し出はとても有難かったんだ。のんちゃんがいつも自分の傍にいてくれたら、どんなに嬉しいかと何度も思ったけれど、結婚を申し込む勇気がなかなかなかったから」 「!」 思いがけない木野の言葉にびっくりして、のぞみは嬉しさで息をするのを忘れる程だった。 「一応大学は出たけれどって感じで、今の会社に入って一人前の顔をしているけれど、実の所、僕は天外孤独の身で、帰る家も無く、一人で生きて来たので、結婚なんてとても考える事が出来る身の上じゃないと思っていたから」 のぞみは淋しげに笑う木野の姿に、自分の知らない一面を見て、なお心が惹かれて行くのを感じた。 「のんちゃんが僕の事を思ってくれていると、お母さんから聞いてすぐに返事をさせて貰ったんだよ」 木野はそう言って、優しくのぞみを見つめてくれた。 「私は、初めて会ったあの日から、あなたの事が大好きでした。でも、あなたは私にとって、手の届く事の無い遠い人だと思っていましたから、結婚なんて考えてもいませんでした。だから、私の為に時間を割いて、あっちこっち連れて行って下さるのが嬉しくて甘えていました」 本当はいつもあなたの傍にいて、もしお嫁さんになれるならと夢を見ていたなんて、とても言えないのぞみだった。 「私をお嫁さんにして戴けるなんて思ってもいなかったので、これは夢かなと思ってまだ信じられないんです」 「結婚式の日、先輩の奥さんにのんちゃんの事を言われてから、自分にも幸せが舞い降りて来たかなと……」 と言いながら、木野はのぞみを見つめると、はにかんで笑った。 「私もです。洋子ちゃんが私の心をあなたに伝えてくれた時、とても嬉しかったです。そして、それが本当になったんですもの。信じられない位幸せです」 そう言ってのぞみは、キュッと自分の頬っぺたを抓った。 驚いた木野が、目を丸くしてのぞみを見つめた。
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