母の意外な行動

3/3
前へ
/187ページ
次へ
「緊張している姿が可愛かったのを今でも覚えてるよ」 (わあ! あの時から木野さんは私の事を!) のぞみは嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いてしまった。 (じゃあ、あの時岡西さんとカップルにされた時の事も覚えてるんだろうな、きっと~) 気の強い子だと思われてしまったかも知れない。そう思うと恥ずかしくて顔を上げる事が出来なくなってしまった。そんなのぞみに木野は笑いながら言った。 「岡西とペアになった時、いきなり立ち上がって言うだけの事を言うと颯爽と帰って行っただろう。あれはカッコ良いなって思ったよ」 「私、あの時の事は今でも反省しています。私……あんな失礼な事する気なんて全然なかったのに、嫌で耐えられない時、本能的にその場所から逃げたくなってしまうんです」 「三十六計逃げるに如かずという言葉通り、困った時はその場から立ち去るのが得策って場合が結構多いんだよ!」 そう言って木野は、中々顔を上げれずにいるのぞみの手をそっと握ってくれた。 「ほら、高島屋に着いたよ!」 「はい!」 二人はすぐに地下の食料品に行って、お目当ての最中、百楽を買うと難波駅に向かった。 「あれに乗ろう!」 「はい!」 二人は、ちょうど発車しかけている橋本行きの急行にぴょんと飛び乗った。 電車は意外と空いていて、珍しく座る事が出来た。 河内長野駅に着くと、二人は真っ直ぐのぞみの家の方に向かった。 「この道を行くのは初めてだね」 木野が笑いながら、のぞみに言った。 「はい!」 「何か緊張して来たよ」 木野が額の汗を拭う仕草をしたので、のぞみは嬉しそうにコロコロと笑った。 デートの帰り、いつも別れる交差点から、少し脇道に入るとそこは静かな住宅街になっていて、手入れされた垣根が多く、のぞみの家もその一角にあった。 「ここなんです!」 2階建ての垣根に囲まれた、落ち着いた佇まいの家の門扉を押して入ると、少し奥行きのある前栽があって、手入れされた植木が形よく植えられていた。 「ただいま!」 「お帰りなさい!」 のぞみが声を掛けると、母が嬉しそうに出てきて、木野を応接室に通した。 そしてソファに座る様に勧めると、キッチンに戻ってソファテーブルの上に珈琲と茶菓子を置いて言った。 「今日は、お電話を頂いて有り難うございます」 母は木野に丁寧にお辞儀してから、のぞみの横に静かに座った。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加