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「のんちゃん、部屋にお布団引いて有るから、そこに寝かせて上げよう」
「良いのですか? お母さん」
カウンターの奥にある引き戸を引くと、広い板の間になっていて、お母さんに勧められるまま、胡桃を抱いてついて行くと、その奥にまた板戸があり、開けると三間続きの畳の部屋が見えた。
「くうちゃんをここに寝かせて、私らはご飯を食べよう」
「はい!」
お母さんは、胡桃を自分の布団に寝かせると、「安心して、ゆっくり寝るんだよ」と優しく声を掛けた。
「くうちゃんが目を覚ましても分かる様に、ここの戸は全部開けておこう」
そう言って、お母さんはお店に戻ると、「よっこらしょ」と、小さく掛け声を掛けてカウンターに降りた。そして、さっき、作ってくれた鍋焼きうどんを温め直した。
「今日は有り難う。疲れたやろ」
「いいえ、楽しかったです。良いお客さんばっかりで」
「どう、ここでやって行けそう?」
「はい。働かせて頂けて本当に嬉しいです!」
のぞみは、改めてお母さんにお礼を言った。
「お礼を言わなくちゃいけないのは、私の方よ。のんちゃんの生き生き働いてる姿を見て、こちとら、涙が出て来ちゃったよ」
「……」
お母さんの言葉に、のぞみは胸がいっぱいになって、お礼を言わなければならないと思うのに言葉がすぐに出て来なかった。
「これから二人で、頑張って行こうね!」
「はい。宜しくお願い致します」
のぞみは立ち上がって、お母さんにお礼を言った。
辛すぎて堪らず、夢中で家を出て来たけれど、本当の所は小さな胡桃を抱えて、これからどうして生きて行ったらいいのか分からない不安の方が大きかったと言うのが正直な気持ちだった。
「うちの営業時間は、夕方の5時から夜の11時までで、休みは日曜と祝日、盆暮れの休みはその都度考えながら決めてるのよ。そう言う事で今日は疲れたろ。お風呂に入って寝ようか。片づけは明日すればいいから」
お母さんは眠くなったのか、ふあっとあくびをしながら言った。
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