第1章 〔ひさご〕での日々

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「泣くだけ泣いて、辛いことは忘れてしまうんだよ。くうちゃんを虐めたその怖いおばちゃんは、おばあちゃんが、必ず懲らしめてやるから」 いつまでも泣きやまない胡桃を抱きながら、あやす様にお母さんが言った。 「くうちゃんは、今まで泣いた事がなかったんだね」 「はい」 胡桃が小さく頷くと、お母さんは体を揺らして、小さな子をあやす様に言った。 「泣いたら、熱いのやビリビリをいっぱいされるの」 「そのおばちゃんにかい」 「はい」 「今度そのおばちゃんを見つけたら、おばあちゃんがくうちゃんのやられた分をぜんぶ返してやるから、安心おし」 「はい」 「その代わり、今までの辛い事は、みんな忘れるんだよ!」 「はい!」 泣き晴らした目に、力を込めて返事した。 「もし、怖かった事を思い出したら、おばあちゃんに言うんだよ。辛い事を忘れるおまじないをしてあげるからね」 「はい!」 お母さんに抱かれて安心なのか胡桃の顔に可愛い笑顔が戻ってきた。 お母さんは裸のまま胡桃を抱き締めて、「嫌な事は飛んで行け」と言った。そして、胡桃に頬摺りすると、 「くうちゃんも、おばあちゃんと一緒に言ってごらん」 と言った。二人は嬉しそうに、何度も嫌な事は飛んで行けと言った。 二人の姿に、のぞみも救われて、心の中に温かい思いが入ってきた。 (お母さん、有り難うございます!) 「さ、もう嫌な事は全部忘れて、お風呂に入ろう。のんちゃん、のんちゃんもだよ」 「はい!」 「くよくよしても、何の解決にもならないんだからね」 お母さんの言葉にのぞみも元気よく返事をした。 「ほらほら、くうちゃんものんちゃんも、こんなに体が冷えちゃて」 「はい!」 「さっ、ここで掛かり湯をして… はい、よく出来ました」 「はい」
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