第1章 〔ひさご〕での日々

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「くうちゃんというのね。可愛い顔してもう眠ってる」 ビクッとして振り返ると、【ひさご】の女将さんだった。 「ごめんね。さっきは酷い事言って」 「いいえ、私の方こそ失礼な事をしてしまって、申し訳なく思っております」 のぞみは胡桃を抱いたまま、深々と頭を下げて、先程の非礼を詫びた。   「子供を連れて、雇ってくれなんて言われたのは初めてだから、びっくりしてしまって、嫌な事を言ってしまったわ」 「いいえ、私の方こそ申し訳ないと…」 「あんな酷い事を言って、うちに来てくれって言うのもどうかと思うけど…」 「良いのですか! 働かせて頂けるのですか! 有り難うございます」 のぞみは胡桃を抱いたまま、何度も何度も頭を下げてお礼を言った。 嬉しくて、涙が止まらない。 働く所が見つかってホッとした気持ちと、居場所を見つけた安心感で、 「くうちゃんおいで、おばあちゃんだよ」 すっかり眠って、ぐたっとしている胡桃を、女将さんが優しく抱き取ってくれた。 「行こうか! 店に」 「はい!」
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