スパイシーラヴ

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「お待たせ。ごめんな途中参加で。」 「いや全然いいよ。」 「今どんな状況?」 そう言いながら、俺はステージ上に立つ知り合いの様子を窺った。後ろをチラッと振り向くと、囲いの作られたミキサーのそばに人が一人地面に座っているだけだった。 「ステージは作り終わったかな。あとちょっとで開場するつもり。」 「なるほど、オッケー。じゃあ裏でジャケットに着替えてくるわ。」 「ああ。ん?」 俺の前に立つ会長が怪訝そうな顔で見ている。 「ん?どうしたんだ?なんかおかしいか?」 「いや、え、それ、そういう柄?」 「え、何が?」 会長は俺の胸あたりをじっと見つめているように見えた。見当もつかずその視線に誘われて俺も自分の白いTシャツに目をやる。 「あっ!あっあー、こ、これこういうやつなんだ。」 彼女は怪訝そうな顔をやめないが、やがて諦めたように視線を戻した。 「そう。ならいいんだけど。変わった服だね。白地に茶色がかった水玉なんて。」 「そ、そうだろ?あっ、それより時間ないだろうし早く着替えてくる。」 早くこの服を脱ぎたかった。直前にカレーうどんなんて食べてこなければよかった。 控え室に向かいながら後悔の念に駆られる。 「ああ、格好悪い。こぼした俺も、こぼしたことに気づかなかった俺も、とっさに言い訳してしまった俺も。」 子供のようだと思われてなかったかすごく不安だった。独り言は霧散する。 会場の電気が全て消える。俺はミキサーの前に座り、最後の確認を行っていた。 ステージ上に淡い青が灯る。直後歓声とともに4人組が手を掲げながらマイクの前に立つ。 「待ってたかーい!」 その言葉をきっかけとして、ステージの明かりが白い閃光のように光った。ドラムのスネアが鳴り響く。刹那音楽が始まる。 俺の視線はミキサーとステージ袖に待機する彼女の姿にあった。遠すぎてちゃんと顔は見えないが、光に少し照らされ眩しそうな彼女は、音楽を奏でる彼らよりも光っているように見えた。 暗転。今日も長くて短いライブが終わりを告げた。 「おつかれー。今日は意外と撤収早かったよな。」 「ほんとだね。人が多かったからかな。」 「あ、それもあるかもな。あれ?もう着替えたんだ?ちょっと待ってて、俺も今すぐ着替えてくる。」 「りょうかーい。待っとくね。」 「ありがとう。」 控え室に向かう。 シャツを見て昼の後悔を思い出した。始まる前にちょっと洗ったせいか、水玉模様は薄い黄色に変わり果てていた。 「お待たせ。」 「ふふふっ」 「ん?どうした?」 「やっぱりそれ、その水玉おかしいよね?」 「あーバレた?カレーうどん食べた時に、エプロンがなくてすごい飛んだんだ。恥ずかしいわ。」 「あーそうだったんだ。意外と模様にも見えるから、柄だったら私が恥ずかしくなるし、と思って言いづらかったんだよね。」 「そういうこと、そういうこと」 「・・・かわいいとこもあるんだね。」 「ん?今なんかいった?」 「言ってないよ。」 「かわいいって聞こえた気がしたんだけど。」 「気のせい気のせい。さ、打ち上げ行こ!」 メガネをくいっと上げて、彼女は前を歩き出した。 「そう、だな!ぱっと飲もう!」 「いいね。今日は負けないよ?」 「お?言ったなー?」 彼女の隣まで少し駆けた。暗い夜、シャツにまだらについた黄色が少し明るくなった気がした。
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