彼の上着

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(どういう事……?これ、先輩のじゃなかったの?)  和奏は教室を飛び出す。どこかへ人のいないところへ行きたかった。  自分のショックの受けように、思っていたより彼を気になっていた事に気づき驚いた。  そんな和奏の手を掴む人がいた。隣のクラスの人だろうか。見たことのない人だった。 「斉藤(さいとう)さん。……俺のこと知ってる?」  彼は和奏の名前を知っていた。しかし和奏は彼のことは知らなかった。 「ごめんなさい。どなたですか?」 「隣のクラスの『木野』です。木野涼平(りょうへい)」  和奏はもう一度木野、と呟いた。 「一個上の木野涼介は俺の兄貴なんだ。あの、それでさ……ウインドブレーカー、持ってるよね?木野って入ってる」 「もしかして……」 「あれ、俺なんだ。斉藤さんが寒そうにしていたからかけちゃって……。迷惑だったらごめん」  彼は彼の兄のように人を引き寄せるオーラは持ち合わせていなかったが、何故か和奏は目が離せなかった。 「全然迷惑じゃ……。あの、ポケットの中にはいってた手紙は……」  彼は少し戸惑ったように話し出す。 「……直接渡す勇気が出なかったんだ。でもあの日、君の後ろ姿を見つけて何かきっかけが作れないかなって思って……。手紙はずっとポケットに入れてたんだ」  彼は、「でも」と和奏の目を見て言った。 「でも、書いてあったことは本当だよ。それだけ言おうと思って」  そう言うと彼は自分の教室へ走っていく。  その場に残された和奏は菜摘が来るまで一歩も動けなかった。顔が熱くなるのが分かる。うつむいた和奏を心配する菜摘の声がした。      それは新しい恋の始まり、かもしれない。 ─Fine─
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