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彼の上着
雨の日に上着を貸してくれた彼のことを、和奏は今も探している。
「和奏。今日先に帰るね」
「なになに?彼氏?」
菜摘は鞄を持って、意味ありげに笑った。付き合って二ヶ月。今が一番楽しいときだろう。
手を振って教室を出ていく菜摘に手を振り返した。
和奏は当番日誌を開く。今日一日あったこと、休みの人、などを書いて最後の空欄を見る。和奏のクラスの当番日誌は空欄を全て埋めなければ提出できないのだった。それは自分の好きな物の紹介でもいいし、絵でもいい。試しに何ページかぺらりと捲ってみると、上手な絵が多数書かれていた。
(絵上手くないしなあ)
和奏は仕方無しに、好きな本について書くことにした。和歌を用いた男女の恋物語。
書いていると夢中になってしまったらしく、最後は行が足りなくなってしまった。
なんとか詰め込んで、和奏は当番日誌を閉じた。あとは担任の机の上の箱に提出するだけだ。
リュックサックを背負って、和奏は机の横に掛けていた紙袋を持った。その紙袋の中には一着のウインドブレーカーが入っていた。
先日、季節に合わず寒い日になった時、帰り際に掛けてくれたウインドブレーカー。後ろからかけられて、そのままその人は何も言うことなく走って帰っていった。学ランを着ていたから男子だろう。昔見たドラマのようだと思った。
その後、家に帰って確認するとサッカー部の木野という人だと分かった。背中に部活名が、腕の部分には名前が書かれていた。
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