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夏の贈り物
「ただいま…なに、もう仕事?」
学校から帰ったエミリーは、玄関先で慌ただしくジャケットを羽織る母親に遭遇した。
「夕飯は冷蔵庫にあるから。帰りは11時くらいかな。宿題やって寝るのよ」
「子供の放置で通報されちゃえ」
ジャケットのボタンを留めた母は、エミリーに向き直ると髪を撫でた。
「エミリー。いつもほったらかしにして悪いとは思うわ。でも私が働かないと家も食事もなくなっちゃうのよ」
「わかってるよ。いってらっしゃい」
母は彼女の頬にキスをすると、速足で家を後にした。
母の車のエンジン音を聞きながらベッドに転がった。
枕元の薄汚れたピエロがころんと転がる。
彼女の両親は離婚していた。
父の記憶は朧気だ。
辛うじて覚えている光景は、自分の鼻を突っついて来る父の綺麗な指先。
それと、その指先につままれた一輪の花。
「父さんがいればな…」
エミリーは少し伸びた爪先でピエロの鼻を突っつくと、嫌な事は先に済ませるために机に向かった。
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