夏の贈り物

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 何度も通ったサーカスも、残る開催日は明日のみ。  エミリーの引き出しには、造花が18本になった。  今日もピエロは無言でマジックを披露する。  女の子の人形と、ピエロの人形を使った少し物語のあるマジック。  女の子は、しくしく泣いているようだった。  ピエロの人形があれやこれや手品で物を出し、女の子を笑わせようとしている。  泣き止まない彼女に、最後は空中に放り出されるピエロ。それは宙で羽毛をまき散らす鳩に変わった。鳩は飛んで行き、羽毛が舞う中で女の子は拍手をする。  人形のなくなった右手には、いつもの造花。  差し出す相手はエミリー。  彼女はそれを受け取ると微笑んだ。  ピエロは無表情だけど、分厚い化粧の向こうの目がほんの少しだけ細くなった気がした。  最終日、エミリーはもらった造花全てを花束にして、枕元のピエロの手にくくりつけた。    いつものように、ピエロのマジックを最後まで見守る。  最後の日のためか、派手なマジックが多いように見えた。  そしていつものように造花をエミリーに差し出す。  彼女はそれを受け取ると、持ってきた花束に最後の一本を差し込んだ。  ピエロに持たせた花束を無言で突き出すと、ピエロが仕草で”自分に?”と言う。  エミリーはコクンと一度頷いた。  私を忘れないでくれたらいいな。  ピエロが心臓の前で、”ドキドキする”の仕草をして、その後”泣いている”仕草をした。     帽子を脱いで挨拶をした後、今日は服のあちこちからキャンディをまき散らしながらテントへ帰って行った。
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