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スクールバスに乗る日常が戻った。
エミリーはサーカスの跡地を見ながら、ひと夏の想い出を心に浮かべる。
あれが父さんだったのか、別の誰かだったのか彼女にはわからない。
でも、もし父さんだったら…。そんな想像をした。
エミリーは足しげく「父さんの職場」に通い、「忙しくて家にはあまりいないけど娘のことを想う父」から「これで許してね」と花を貰い、「仕方ないなあ」と笑顔で許し家路につく……そんな夏休みを過ごしたのだ。
学校が終わり、帰宅する。
今日は母は朝から夜遅くまでいない。
夕飯は冷凍のラザニアかな。昨日も食べたけど。
庭のゲートを開くと、玄関前のポーチに何か置かれているのが見えた。
ピエロの人形が抱える、大量の青いワスレナグサ。
「なにこれ……父さん?」
ピエロごと抱えると、造花ではない本物の花の香りがほんのり広がった。
「忘れないよ。ずっと覚えてるよ父さんの指先。覚えてるからね」
無言のピエロと交わした心。
ひと夏の想い出は、大人になった彼女が父を探し出すまでずっと心を温め続けた。
再会した父の指先は、とても綺麗だった。
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