炊飯器の魔王

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『なぁにアホヅラしてんだ、魔王様を前にして』  白飯の塊、もとい自称魔王は、初対面の私に失礼な一言を投げつける。 「いや、えっと……あれ?」  ここってそういう世界だったっけ? 無生物がしゃべったり魔王がいたり、剣や魔法がブイブイいわせたりするんだっけ?  思わずあたりを見回す。見慣れた狭いキッチンにあるのは、三徳包丁と魔法瓶水筒。異世界転移したわけではなさそうだ。  気を取り直して、もう一度炊飯器の中を覗いてみる。そこにはやはり、不遜な顔で私を見上げる一握の白飯があった。 「うーん」  首をひねってうなる私の脳に、別に何も不思議じゃないぞという様子で魔王が語りかける。 『お前、1粒の米には7人の神が宿っていると、聞いたことくらいはあるだろう?』 「え。うん、まぁ」 『つまり俺様は、4662の神の融合体なのだ』 「ええと……つまり君様は666個の米粒の塊ってことね」  帰宅時から握っていたスマホの電卓で魔王の正体を暴く。神の融合体なら闇堕ちしても魔ではとか、神の単位は(にん)ではなく(はしら)じゃないかとか、細かいことはとりあえず置いといて、だ。すると魔王はなぜか遠い目になり、家主(わたし)の不在時に開催された天下一武道会について語り始めた。 『この暗く狭い釜の中で、三日三晩にわたり4662の神による死闘が繰り広げられたのだ。お前に想像できるか?』 「できるか? って言われても」  できないこともないが……いや、できないか。1粒の米に宿る神なんて、どんな姿、てゆうか体長何ミリだ?
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