炊飯器の魔王

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『それはまさに蠱毒(こどく)をも超越した混沌』 「え? なに?」 『知らぬのか、無知な若者め』  生後数日の魔王に呆れ顔で見上げられている。が、シュールな状況にも慣れてきた。なるほど! とは到底思えないけれど、放置プレイされたマイクロミニな神々の修羅場があって、勝ち残ったのが魔王ってことになった、のかな。 「てゆうかさ、4662体て言っても一握りの米でしょ? だったら普通のおにぎりとか大盛りご飯の方が強いんじゃないの?」  井の中の蛙ならぬ、炊飯器の中の魔王では? 素朴な疑問を口にすると、魔王はなんか、怒った。 『痴れ者め!』  怒りの一撃、だと思う。炊飯器の下から乾いた米粒がひとつ飛び出してきて、私の鼻先に当たった。 『これは警告だ』 「はぁ」 『俺様は世界中の米を意のままに操ることができるのだからな』 「さいですか」  それは、すごいのかな。いや、すごいか。さっきの攻撃は「ピチッ」くらいだったけど。恐れ慄かない私の反応が不満だったのか、魔王は頼みもしないのに奥義を披露した。 『集え、我が下僕(しもべ)たちよ!』  すると、なんということでしょう。家中の乾いた米粒がひとりでに浮き上がり、炊飯器の前に集結したではありませんか。 「へぇー、()(いい)ってこんな落ちてるもんなんだ」  昔、国語で「ちいちゃんのかげおくり」を習ってから、実家(うち)ではカリカリに乾いた米粒を干し飯と呼んでいる。  目の前に集まったビー玉大の干し飯には、いつから我が家でかくれんぼしていたのか、もはや飯とは言いにくい状態のものもいた。害虫(ヤツ)の出る春の前にやってもらってよかったと、内心ホッとしてしまう。
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