14人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
『どうだ? 俺様の命令一つで、裸足で歩く総理大臣の行く手にある米粒を立ち上がらせ、足裏に突き刺すこともできるのだぞ』
「あぁ、レゴ踏んだみたいなやつ」
無法者の弟がいたから身をもって知っている。あれは痛い。
ドヤ顔で見上げる魔王に、私は国民の総意を代弁した。
「じゃあ、やっちゃってよ」
『ん?』
「やっちまえって」
『いや、それは、慎重に時期を見極めて』
「役立たず」
『今はその時ではないのだ!』
プッ、プッ
魔王が顔に米粒を飛ばしてくる。興奮した上司が唾を飛ばす様子を思い出してしまい、一瞬で厭な気持ちになった。
『だがな、考えてみろ。米の塊が弾丸のごとく飛べば、人間の体など貫通するのはたやすい』
半目になった私に構わず、くくく、と魔王が笑う。
『腹に収めた米が破裂したらどうなる? 世界中の米粒が致死量の毒を含んだとしたら?』
半分干し飯のくせに、ねっとりした声で魔王は言った。
『お前に選択肢はない。俺様の魔力が熟成しるまでこの釜を快適に保ち、せいぜい俺様の機嫌を損ねぬようーーえっ、おい何を!』
ボグッ
私は炊飯器の蓋を閉め、「切」ボタンを押した。
たぶん悪態をついているだろうけれど、魔王の声は全く聞こえない。集まった干し飯も静かなままだ。
「やっぱそっか」
内釜と外釜に守られ、フッ素樹脂でコーティングまでされた炊飯器の中からでは、魔王の命令は外界に影響しないらしい。
最初のコメントを投稿しよう!