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材料集め
「さあ! どんどん釣っていこう!」
「いやいや、ちょっと待て。どうしてここにおまえがいるんだ? っていうか、その釣り竿はどうしたんだよ……」
朝早くから張り切って釣り竿をかかえ、現在リーナがいるのは海の上だ。そしてジルの声掛けにも気を留めることなく、リーナは釣り竿の先に何かをつけて、それを海へと投げ込む。
……あとは待つだけ! 楽しみだなあ。
どんな獲物がかかるかとわくわくしているリーナ。そんなリーナの横でジルは頭を抱えていた。
「ここはダンジョン付近の警戒指定海域だぞ……どうやったらここで釣りをしようなんて発想に至るんだ……」
「ジル兄、朝早いね。もしかしてジル兄も釣りしにきたの?」
「そんなわけないだろう……リーナ、その釣り竿どこから持ってきたんだ?」
「ん? これ? これはこの前一緒に行ったお店の店主さんに借りたんだよ」
そういって、ここまで至った経緯を語る。
ことの始まりは、リーナがグリーディアに来た初日までさかのぼる。お店で食べた料理にとても感動したリーナは、店主に料理で使っている材料についての話を聞いていた。すると、材料の中には近くの海岸付近で店主自らが釣ってきているものもあるのだとか。その言葉にリーナがとても興味を示すと、なんと今度の釣りに同行しても良いと言ってくれたのだ。
それから数日、釣りをとても楽しみにしていたリーナは、グリーディアの料理を堪能しながら、海の生態について入念に勉強していた。
そしてようやくやってきた釣りの日が今日だったのである。
「……それで、店主はどこに?」
ジルは色々と言いたいことを飲み込んで、とりあえずそれだけを言葉にする。
「先に仕掛けていた罠を見に行ってから、後で追いかけるって言ってたよ。一本釣りはこのあたりが一番いいんだって!」
リーナはじっと海を見つめながら、ジルの問いに答える。
「そうなのか……いや、ちょっと待て。そうじゃない。最近この辺りでは魔獣の増加が報告されている! そもそも、一本釣りをするようなところでは……」
グリーディアにあるダンジョンのうちの一つである、海底ダンジョン。国内のダンジョンでは唯一、海底にその入り口があることから、海の迷宮などとも呼ばれる場所だ。ダンジョン付近ではダンジョン内の膨大な魔力の影響で魔獣が多く発生する。そのため、周囲を警戒指定海域として人の出入りを制限しているのだ。
” ……何を言っても、マスターの頭の中は、釣りと獲物のことでいっぱいですよ”
達観した様子で話すリーナの相棒は、ここ数日の説得によって疲弊していた。
ジルは再び頭を抱え、獲物を求めてリーナはじっと竿の先に集中している。
「おっ、始めてるな。そちらは……この前店に来てくれた人だね。朝早くからご苦労さん」
そんな一同に、声をかけてきたのはリーナを釣りに誘った店主だ。
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