水性ラブレター

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 そしてわたしはといえば、その場で凍り付いていた。脳内では記憶がグルグルと巻き戻される。わたしとアタルは両想いなんじゃないか? という淡い期待は、完全にわたしの勘違いだったということだ。凍り付いていた身体が一気に溶け、反対に全身がカッと熱くなり、顔から火が出そうになる。 「ちょっと、彼女見せろよ」  三好がアタルに迫っている。 「いいよ」  アタルは学ランの胸ポケットからスマホを取り出し、操作をはじめた。三好が横からのぞきこんでいる。「あたしも見たい」と瑠奈も便乗する。 「うわ、かわいいじゃねえかあ」  三好が叫び、 「こんなカワイイ彼女を隠してたなんて、アタル、許せん!」  と、アタルの背中をボンッと押した。アタルは海に向かって体勢を崩す。 「わっ、ちょっと」アタルは声をあげると同時に制服のまま波打ち際に膝をついた。学ランの膝から下は海水でびしょぬれだ。 「おい三好、急になにするんだよ」  アタルは怒ったように言い、しかし顔は綻んでいて、膝下から海水を滴らせたまま三好に向かって歩き出した。お約束の展開だ。わたしたちはこうやって、いつも海で遊んできたのだ。三好がふざけてアタルを海に落とし、それから容赦のない水遊びがはじまる。いつもならばこの遊びは夏限定で、この気温では海に入ったりしないのだけれど、今日はきっと、最後だから特別だ。  アタルが砂浜で三好の身体を海に向かって押す。三好は海に入る瞬間に瑠奈の腕をつかみ、彼女も道連れにしたうえで波打ち際に倒れ込む。 「うわー」瑠奈は笑っていた。「こんな遊びも今日で最後かー」 「凜夏もきてよ」  アタルがわたしに向かって笑いかける。顔から火が出そうなほどの羞恥心に襲われているわたしの気持ちも知らないで。
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