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「俺らがジジィになるころには瑠奈もオバサンなんだから、水着とか着られないんじゃね」
三好がスマホを学ランのポケットにしまい、砂浜の瑠奈に向かって言った。
「うるさい、あたしは一生オバサンになんてならねーし」
瑠奈が立ち上がって三好をにらみ、そのまま堤防に上がってきて三好の隣に座った。
「将来の同窓会とか楽しみにしといてよ」瑠奈が三好の肩を叩く。「水着で出席してやるからさ。三〇年たってもカワイイあたしにビックリして心臓止まっちゃうかもよ」
「三〇年後の瑠奈の水着姿か」三好が瑠奈の顔を見つめている。「想像してみたけど、実際に見たらそれこそ心臓が止まるかもしれん」
「かわいくて、でしょ?」
「いや、恐怖で」
わざとらしく怯えた顔を作る三好の頭を瑠奈がパーンとはたく。「だまれジジィ」
「うわいってぇ、まだジジィじゃねーし」
三好が頭をさする。
「思いっきりいきすぎたわ、ごめんごめん」
謝罪の言葉とは裏腹に、瑠奈は爆笑している。
「もう、暴力反対!」
三好が大声で海に向かって叫ぶ。
わたしたちは笑い声を上げた。
賑やかな笑い声の中、
「なんか、改めて思うけど」アタルがわたしの肩に顔を寄せて囁いた。「仲良しだよなあ、俺たちって」
「ほんとにね」
わたしは彼に同意しながら、〈だからこそ、今日までずっと言えなかったんだけどね〉と心の中で愚痴をこぼした。アタルはじゃれ合う三好と瑠奈に視線を向け、目を細めていた。
そんなアタルの顔を見て、わたしはポケットの手紙のことを考える。
〈アタルのこと、ずっと好きだったよ〉
手紙にはそう書いた。仲良しだからこそ、この関係を壊したくなくて、今日までずっと言えなかった。今日だってちゃんと渡せるかどうかわからない。今日はきっと、こうして過ごせる最後の日なのに。
ひとしきり笑い、はしゃいだ後、わたしたちのあいだには沈黙が流れた。波の音だけが聴覚を占領し、時が止まったような感じがした。四人とも、みなまっすぐに前を見据え、インスタ色の空を見ていた。
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