水性ラブレター

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 しばらくして、瑠奈のつぶやきが沈黙をやぶる。 「ここで話すのも今日で最後か」 「みんなバラバラになるのって、信じられないくらいさみしいな」  三好がうつむく。 「三年間、ずっといっしょだったもんね」  アタルの低い声が、宙を漂い海に向かっていくような感じがした。  わたしたちの高校では、三年間クラス替えはない。だからわたしたち四人は一年から三年までずっと同じ教室で過ごした。 「帰宅部、俺らだけだったしなあ」三好が短くため息をついた。 「放課後楽しかったよね」わたしはそう口にした。  わたしたち四人は帰宅部で、下校時間がいっしょだったことがきっかけで親しくなった。習い事などもしていなかったわたしたちは時間をもてあましていたため、自然とこの海辺で放課後を過ごすようになっていったのだった。 「ほんと、無駄なことばっかしてたよなあ」  アタルがしみじみとしたトーンで言う。 「〇×ゲームにハマってた時期あったよね?」  瑠奈が笑う。〈〇×ゲーム〉とは、3×3マスを〇と×で埋めていき、最初に三つ同じマークをそろえたほうが勝ち、というあのゲームだ。 「あったあった。たしか、一年の冬」アタルが当時を思い出すように言う。 「寒いなかよくやってたよね」わたしは言った。 「ほんとだよ。最後のほうは、アタルと凜夏がいつも5×5マスで戦ってたし」三好がわたしとアタルのほうを見る。  その言葉で、当時の記憶がありありと蘇ってくる。最初は四人でやりはじめたのだけれど、三好と瑠奈は数日で飽き、興味を示さなくなった。 「戦ってたっていうか、必勝法を考えてたんだ」  アタルが言う。  わたしたちはメモ用紙に5×5マスの〇×ゲームにおけるあらゆる攻防パターンを書きだして、何日もかけて必勝法を探っていた。わたしは保守的な性格だ。新しいことをはじめるのが苦手なので、一度やり始めたことはできるだけ長くやっていたい。飽きっぽく、新しいもの好きが多い高校生たちの中で、この性格を理解し、付き合ってくれた人はアタル、ただ一人しかいなかった。
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