0人が本棚に入れています
本棚に追加
「でもメモ用紙を俺が上着のポケットの中に入れたまま洗濯しちゃって、検証結果は途中で全部消えちゃったんだよ」
アタルが言い、わたしは我に返った。
「そう、あれは衝撃的だったよ。全部白紙になっちゃったからね」
わたしは言いながら、また過去の回想にもぐりこむ。
〇×ゲームの研究をはじめてから二週間ほど経った日の朝、もうすぐ必勝法に辿りつけそうだ、と思っていた矢先、アタルがわたしにメモ用紙を見せてきた。
「ごめん、洗濯しちゃって全部消えた」
びっしりと〇×ゲームの攻防パターンが書かれていたはずのメモ用紙は、白紙の寄れた紙屑に変わっていた。メモしていたのはわたしだった。愛用していたボールペンが水性であることは把握していたので、洗濯ですべてが落ちてしまったことにも納得した。
「えー、嘘でしょ」
わたしはショックを受けながらも、「ごめん」とつぶやくアタルの心底申し訳なさそうな顔を見て怒る気をなくした。アタルのことが好きだ、という気持ちも怒りの消失に影響したのかもしれない。
「いいよ、別に。また暇なときに、わたしが家で書き直すから」
わたしが言うと、
「ありがとう、凜夏ってほんとやさしい」
アタルは満面の笑みを浮かべた。わたしは胸が高鳴るのを感じた。アタルがわたしのことを好きになってくれる、なんてそれまでは毛頭思っていなかったのだけれど、このときばかりは淡い期待を抱いた——正直に言うと、今でもちょっとだけ、期待してしまっている。わたしとアタルは両想いなんじゃないか? そう思わせるくらいには、そのときのアタルの笑顔はうれしそうに見えた。
そしてその事件の直後、わたしたちは三好が買ってきた謎解きの本にハマったため、自然と〇×ゲームブームは去っていった。しかしそのあともわたしは自宅で一人、〇×ゲームの検証を続け、〇×ゲームの必勝法を編み出した。
最初のコメントを投稿しよう!