0人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
それから二〇分ほど経ったあと、わたしたちは波打ち際に並んで立っていた。夕日があまりにも綺麗だったので、「少しでも近くで見ようよ」と瑠奈が言い出したのだった。
「太陽が沈んだら俺たちの三年間も終わりだな」
三好がつぶやく。
「ね、マジでそんな感じ」瑠奈が言う。「うちらはまだ日本にいるからたまには会えるかもしれないけど、アタルはマレーシアに行っちゃうんだもんね」
「しかも明日な」三好の声は沈んでいた。「親の都合とはいえ、卒業式の次の日に引っ越しなんて急すぎだろ」
「しょうがないよ。これでもかなり待ってもらったんだ」
アタルの白い肌に夕日のオレンジ色がうつっている。わたしは彼のポケットの中が気になる。手紙はどこかに落ちてしまっていないだろうか、と彼のまわりの砂浜に目をはわせた。
「でも、この辺りにはたまに帰ってくるから」
アタルはあっさりとした口調で言った。
「え」と三好と瑠奈、そしてわたしの声が重なる。
「帰ってくんのかよ」三好の口角が上がる。「どんくらいの頻度で?」
「んー、まあ年に三回くらいは」
「けっこうな頻度だね」瑠奈が拍子抜けしたように言った。「あたし的には、卒業したらアタルには一生会えなくなるくらいの感じでいたのに」
「いや、全然会えるよ」アタルは真顔だ。「年に三回は帰ってくる約束になってるから」
最初のコメントを投稿しよう!