好きだからキスしたい

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翌日、放課後になったらどきどきでおかしくなりそうだった。玲央くんと一緒に学校を出て、電車に乗って、玲央くんの部屋に。 パタン 「わっ」 ドアの閉まる音に変な声を上げてしまう。俺の声に玲央くんが笑っている。 「実晴、来い」 「え……」 「こっち来い」 手を広げてくれる玲央くんに近づくと、きゅっと抱き締められた。玲央くんの優しいにおいがする。どきどきは落ち着かなくて、むしろもっと心臓が飛び跳ねてしまうくらいだけど、それでも心地いい。玲央くんの背中に腕を回してぎゅっと抱きつく。 「玲央くんの“好き”、嬉しかった」 「そうか」 「またやってほしいな」 「実晴がそんなに喜んでくれるならいつでも」 甘くて優しい玲央くん。ちょっと意地悪なときもあるけど、そこも大好き。 「それで、実晴も俺を喜ばせてくれると嬉しいんだが」 「え?」 顔を覗き込まれてどきりとする。ふに、と不意打ちのキスに頬が一気に熱くなる。 「実晴からのキスは?」 「えっ、えっ!?」 逃がさない、と顎を持たれてまっすぐ見つめられる。頬の熱がどんどん高まっていって、火が出そう。 「あの……」 どうしよう……。キスをしたくないわけじゃない。だけど恥ずかしくてできない。俺だって玲央くんが好きだからキスしたい。キスしたい気持ちはある。でもやっぱり恥ずかしい気持ちが大きくて……。 「……実晴は俺が好きか?」 「大好き!」 即答すると、玲央くんは俺の勢いに驚いた後に笑い出した。くしゃくしゃと髪を撫でられる。 「それならいい。実晴の心の準備ができるまで待つ」 「ほんと?」 「ああ」 よかった……。 ほっと息を吐くと、おでこを指で押された。 「でも、心の準備ができたらしてくれ」 「……頑張る」 「今すぐでもいいぞ」 「それは無理!」 真っ赤な俺の頬を玲央くんが指でつつく。優しい玲央くん。玲央くんの期待に応えたい。俺ばっかり喜ばせてもらっているんじゃなくて、玲央くんにも幸せをあげたい。恥ずかしさを乗り越えて、キスしたい。 あれから玲央くんは俺を急かさない。そして一週間経っても俺はキスをできていない。しようと思うけれど、するぞ、と思うと緊張で身体が動かなくなってしまう。そうすると玲央くんがキスをくれて、今日もだめだった――となる。その繰り返し。 でも! 今日は絶対する。だって、今日は玲央くんと付き合って半年の記念日。記念日とかは玲央くんのほうがしっかり覚えているから、今日キスをしたらすごく特別な感じがする。だからとっておいたわけじゃなくて、たまたま今日になってしまっただけなんだけど。 記念日だからと、帰りに駅前のケーキ屋さんでケーキをふたつ買って玲央くんの部屋へ。どきどきがすごいことになっている。指先が震えているし、たぶん真っ赤だ。最近の俺、ずっと真っ赤な気がする。 「実晴、あーん」 「え?」 「あーん」 玲央くんがケーキを食べさせてくれる。嬉しくて俺も玲央くんにケーキを食べさせてあげる。ケーキを食べ終わって、少しお喋りをして。いい雰囲気。玲央くんにくっつくと、肩を抱かれた。心臓がすごい動きをしている。 「玲央くん……」 玲央くんを見上げたら目が合った。玲央くんが瞼を下ろすので、俺もぎゅっと目を閉じて顔を近づける……。 した! と思ったけどちょっと感触が違う……? そろりと瞼を上げると顔の位置が少しずれていて、玲央くんの唇のすぐ横にキスをしていた。 「!?」 そんな……。 顔を離して項垂れていると、くくくっと笑う声が聞こえるので顔を上げる。玲央くんが笑っている。散々待たせてこれかと思われているんじゃないか。 「最高だ」 髪をくしゃっと撫でられ、唇にちゃんとしたキスが落ちてきた。俺もこういう風にしたかったのに……。玲央くんに抱き寄せられて、寄りかかる。 「ごめんね、玲央くん……」 「謝る必要なんてない。嬉しかった。ありがとう、実晴」 キスも満足にできないなんて、情けない。でも玲央くんはすごく嬉しそうにしている。玲央くんが嬉しそうだと俺も嬉しい。 その後は玲央くんからキスをたくさんもらって、ふわふわする気持ちで幸せな記念日を過ごした。
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