ロールキャベツ

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………俺? 「キッチンに戻ろう。ロールキャベツが煮詰まっちゃうかも」 「あ…」 手を引かれてキッチンに戻る。 安澄の言葉が頭の中をぐるぐる回る。 好きなのは景って言ってた。 景って俺だよな。 安澄は鍋の中を確認してる。 味見してちょっと水を足してるから煮詰まってしまったのかもしれない。 「安澄…?」 「やっぱりちょっと濃くなっちゃってた」 優しく俺に微笑む笑顔はいつもの安澄なのに、見慣れてるのに、どきどきする。 安澄が俺の手を取る。 「俺、景が好き。俺の好きな人は景だよ」 「………嘘だ」 「なんで嘘だと思うの?」 なんでって…。 「だって俺、いいとこなにもない…見た目も普通だし、勉強だって安澄に見てもらってなんとか追い付いてる感じだし、性格悪いし…」 「景はいいところだらけだよ。ひとりでいる俺に声をかけてくれたり、いつも笑っていてくれたり、俺が作るもの喜んで食べてくれたり…ちょっとおバカで抜けてるけど」 安澄が言う俺は、俺が知ってる自分とは違う。 疑問符がふわふわしてる。 それ誰のこと?って。 「景、俺の恋人になる気はない?」 「こっ……!」 えっ!? なにそれ。 「いびと……って、なに?」 「だから俺と付き合ってくださいって言ってるんだけど」 「安澄は俺が好きなの?」 「何度もそう言ってる」 困ったように笑う表情が優しくて、安澄に握られている手をじっと見る。 それからもう一度安澄の顔を見る。 「…俺でいいの?」 「景がいい」 「俺、安澄のこと好きかわからないよ?」 「さっきの様子を見てたら、景が俺を好きなのははっきりしてると思うけど」 そう、なのかな。 言われてみれば、そうかも。 じゃあさっきのもやもやは……嫉妬? 顔が猛烈に熱くなってきた。 「だめだ! 絶対だめ!」 「なんで?」 「俺なんかが安澄を好きとかだめだ!」 「そんなことない。景が俺を好きじゃないのにあの態度だったら、俺落ち込むんだけど」 本当にしゅんとする安澄。 どうしよう、可愛く見える。 「ねえ、景は俺が好きなんでしょ? 好きって認めて?」 「…それ、は…」 「大丈夫。俺しか聞いてないから」 「……」 安澄が聞いてるから恥ずかしいんだって言っても聞いてくれないだろうな。 「……好きでも、怒らない?」 「俺が景に怒ることなんてひとつもないよ」 「でもさっき怒ってた」 「さっき?」 「肉と野菜まぜてるとき、見てていいかってしつこくしてたら、『もういいよ』って」 顔が赤くなるくらい怒ってた。 そう言うと。 「あれは……景に見られてるのが恥ずかしくて」 「?」 「あんまりじっと見られて、その…変な気分になっちゃって」 また頬を染める安澄。 変な気分ってなんだ。 問い詰めていいのかわからない。 だって安澄が今まで見たことのない顔をしてるから。 「…景を食べちゃいたいって思ってた」 「!!」 「色々、したいな…って」 「……」 それは、そういう…こと? なんで? 俺、そんな態度も言葉もなかったよな? 「もう正直に言うけど、景に見られてるだけでめちゃくちゃ興奮する」 手を引っ張られて安澄の腕の中に収まってしまう。 心臓がものすごい暴れ方をして、優しいにおいにくらくらする。 「ねえ、泊まってくでしょ?」 「……」 「嫌って言っても帰さないから」 耳元で囁かれた後に、耳にふっと息を吹きかけられる。 「みっ…みもとで、しゃべるな…!」 「どうして?」 「だって…」 頭おかしくなる。 顔が熱過ぎて恥ずかしい。 でも安澄は俺の顔を覗き込む。 「真っ赤だね。ほんとに今すぐ食べたい」 「ロールキャベツ…」 俺が鍋をちらりと見ると、安澄がIHを切る。 「先に景をいただこうかな」 「え」 「ねえ、俺が好き?」 「………嫌いっていったら食べない?」 「食べ尽くして強引にでも好きって言わせる」 「……」 それってもう選択肢ないじゃん。 と思ってたらまた手を引かれて寝室に連れ込まれてしまった。 パタン、とドアが閉まって安澄と向かい合う。 「景、好きだよ」 「………うん、俺も…あ」 唇が重なって言葉の続きは呑み込まれてしまった。 せっかく素直に言おうと思ったのに。 ロールキャベツを食べるのは明日、だったりするのかな…。 どきどきが激しくて心臓が爆発しそう。 END
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