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「今なにしてる?」
「タネをこねてる」
「どのくらいやるの?」
「粘り気が出るまで」
そうか。
料理ってやっぱり大変そう。
毎回安澄に作ってもらうの申し訳ないな。
今度から途中のコンビニかスーパーでお惣菜を買ってくるようにしよう。
そっか、その大変な作業をしてるところを邪魔されればそりゃ怒るよな。
「…ごめん、安澄」
「え?」
安澄が顔を上げてこちらを見る。
「これからはなにか買ってこような。大変な思いさせてばっかりでごめん」
「は? え、なに言ってるの?」
「だって料理するの大変そうだし、でも安澄がなにしてるか気になっちゃうから俺は見たくて邪魔することになるし…」
料理下手なだけでなく待ち下手とは…最悪。
安澄がまた赤くなってる。
「景は、俺がしてること気になるの?」
「うん。安澄のこと、色々知りたいから」
「っ…」
すごい真っ赤になってる。
暑いんだ…。
どうしよう、寝室から扇風機持ってくるべきかも。
「…景、そういうのずるい」
「は?」
「ずるい…」
安澄がぷいっとそっぽ向いてしまった。
なんで?
それからパスタの容器を手に取るので『?』と思っていると。
「景が爪楊枝で怪我したらいけないから」
「??」
「巻いたキャベツをパスタで止めるの」
「へー…」
俺は爪楊枝で怪我すると思われてるのか。
すごい過保護だな。
ガタガタ音がする。
なんか出してるっぽい。
そういえば安澄って好きな人の話とかしない。
いるのかな。
いるだろうな。
「安澄はさー」
「うん」
「好きな人とかいるの?」
ガチャガチャガッタン
「…大丈夫か?」
「……」
「安澄?」
「…………大丈夫」
ほんとに大丈夫かな。
でもまたキッチンに行ったら怒られそうだし。
「……好きな人、いるよ」
「へえ、誰? うちの学校の人?」
「そう」
「そっか…そうなんだ……」
なんだ、これ。
すごくもやもやする。
安澄が好きになるんだから、めちゃくちゃ可愛いとかかな。
いや、見た目で判断するタイプじゃないから、優しかったり素直だったりするのかな。
……俺とは正反対。
俺は平凡って言葉が服着て歩いてるようなもんだし、優しくも素直でもない…むしろ、かなりひねくれてる自信がある。
「景?」
「えっ?」
安澄が目の前に立っている。
なんで?
もうできたの?
「煮込んでる間はこっち来てもいいよ」
「あ、そ、そう…」
「でもIHには近付いちゃだめ。火傷したら大変だから」
今、あんまり顔見ないで欲しいな。
安澄から目を逸らして、椅子を持ってキッチンに行く。
いつの間にか使った調理器具などは綺麗になっている。
キッチンでふたつ椅子を並べて座ると、またもやもやがひどくなってきた。
「…景は好きな人、いるの?」
「……」
その話題、俺から振ったけど嫌だな…。
「いない」
素っ気ない答え方をしてしまった。
もやもやが心の中でぐるぐるしてる。
「安澄は…………なんでもない」
「なに?」
「だからなんでもないって」
「中途半端に言われるの気持ち悪いから言って」
その気持ちはわかるけど、今なにか言ったら一緒にもやもやが飛び出しそうだ。
どうしよう。
「……安澄はどんな人が好きなのかなって」
「それは…」
「いや、別に答えなくていいから」
ていうか答えて欲しくない。
俺、おかしい。
「可愛い人」
「あ、そう…」
「それから優しくてお人好しで、ちょっとおバカなところがあるとたまらない」
「………」
「あと」
「もういい」
言葉を遮ってしまった。
でも聞いていられない。
だって苦しい。
全部俺には当てはまらない。
「景?」
「…俺、帰る」
「えっ!?」
悲しい悔しい苦しい辛い。
安澄の顔が見たくない。
立ち上がる俺の手を安澄が掴む。
「帰るってどうして? 泊まってくって…」
「もうやだ。嫌になった」
「なにが? 俺、なにかした?」
「……」
安澄はなにもしてない。
ただ俺がおかしいだけ。
安澄の好きな人の話を聞くと喉がぐっと詰まって胸がぎゅっとなる。
「……安澄の馬鹿」
馬鹿は俺だ。
なんで八つ当たりしてるんだ。
ひねくれてる俺はもうここにいたくなくて、安澄を置いてキッチンを出る。
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