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「景!?」
安澄が追いかけてくるのを無視して荷物を取って玄関に向かう。
なんだよ、もう。
安澄は俺なんかいらないんじゃん。
ちゃんと好きな人がいて、俺はあっという間に邪魔者になるんだ。
安澄と安澄の好きな人が付き合ったら、俺がいる必要なんてないんだから。
「景!」
鍵を開けようとする俺の手を安澄が掴む。
顔が見られない。
手を振り払って鍵を開けてドアノブに手をかける。
でも鍵をまたかけられた。
カチャン、と金属音が妙に大きく聞こえる。
「景、こっち向いて」
「……」
「景」
「………やだ」
もう一度鍵を開けようとしたら、両手で肩を掴まれて安澄のほうを向かされた。
俯いて顔を隠すと、肩を掴んでいた手で今度は頬を包まれて顔を持ち上げられる。
それでもまだ抵抗しようと視線をずらす。
「景、どうしたの?」
「……」
「教えて?」
「……」
なにも言いたくない。
口を開きたくない。
開いたら最後、嫌な言葉が飛び出しそうだ。
「景」
安澄の声がちょっと強くなり、思わずびくっとしてしまう。
「……安澄の好きな人…誰?」
「…それは」
「俺…相手が誰でも、ふたりが付き合ったとき祝福できない」
もやもやがぐるぐる渦巻いて竜巻みたいに心の中で暴れてる。
顔が歪んでしまって、鏡のように安澄の表情も歪む。
「どうしたの、景」
「…俺、安澄の好きな人、嫌いかもしれない」
「なんで?」
「気に入らないから」
しゃがみ込むと、安澄もしゃがんで目線を合わせてくる。
「なんで気に入らないの?」
「……」
「景?」
「……安澄が、その人のこと好きだから…気に入らない」
醜い心がそのまま飛び出してしまった。
安澄がびっくりした顔をしてる。
「それって…どういうこと?」
「……わかんない」
「わかんないことないでしょ?」
わからないんだ。
安澄が誰かを好きなのが気に入らない。
他の誰かのものになるのが気に入らない。
全部全部気に入らない。
「景が今思ってること、言ってみて?」
「……言ったら安澄は俺のこと嫌いになるから言わない」
「ならない。言って?」
言いたくない。
だってあまりに自分勝手な思いだ。
こんなの聞いたら安澄は絶対俺を嫌うに決まってる。
「景。聞きたい」
「……」
「景」
またちょっと強く名前を呼ばれる。
この呼ばれ方、さっき初めてされたけど、なんていうか…言うとおりにしないとって気持ちになる。
「……安澄が誰かを好きなのが、気に入らないだけ」
「なんで?」
「安澄が俺から離れてっちゃうから、だと思う」
口に出したらどんどん苦しくなってくる。
言葉にしちゃいけない気持ちってあるんだなと知った。
絶対嫌われる。
「俺は景から離れないよ」
「嘘だ。彼女ができたらその人が一番になるに決まってる」
「彼女っていうか…景だけど?」
「は?」
「俺が好きなのは景なんだけど」
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