ロールキャベツ

3/4
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「景!?」 安澄が追いかけてくるのを無視して荷物を取って玄関に向かう。 なんだよ、もう。 安澄は俺なんかいらないんじゃん。 ちゃんと好きな人がいて、俺はあっという間に邪魔者になるんだ。 安澄と安澄の好きな人が付き合ったら、俺がいる必要なんてないんだから。 「景!」 鍵を開けようとする俺の手を安澄が掴む。 顔が見られない。 手を振り払って鍵を開けてドアノブに手をかける。 でも鍵をまたかけられた。 カチャン、と金属音が妙に大きく聞こえる。 「景、こっち向いて」 「……」 「景」 「………やだ」 もう一度鍵を開けようとしたら、両手で肩を掴まれて安澄のほうを向かされた。 俯いて顔を隠すと、肩を掴んでいた手で今度は頬を包まれて顔を持ち上げられる。 それでもまだ抵抗しようと視線をずらす。 「景、どうしたの?」 「……」 「教えて?」 「……」 なにも言いたくない。 口を開きたくない。 開いたら最後、嫌な言葉が飛び出しそうだ。 「景」 安澄の声がちょっと強くなり、思わずびくっとしてしまう。 「……安澄の好きな人…誰?」 「…それは」 「俺…相手が誰でも、ふたりが付き合ったとき祝福できない」 もやもやがぐるぐる渦巻いて竜巻みたいに心の中で暴れてる。 顔が歪んでしまって、鏡のように安澄の表情も歪む。 「どうしたの、景」 「…俺、安澄の好きな人、嫌いかもしれない」 「なんで?」 「気に入らないから」 しゃがみ込むと、安澄もしゃがんで目線を合わせてくる。 「なんで気に入らないの?」 「……」 「景?」 「……安澄が、その人のこと好きだから…気に入らない」 醜い心がそのまま飛び出してしまった。 安澄がびっくりした顔をしてる。 「それって…どういうこと?」 「……わかんない」 「わかんないことないでしょ?」 わからないんだ。 安澄が誰かを好きなのが気に入らない。 他の誰かのものになるのが気に入らない。 全部全部気に入らない。 「景が今思ってること、言ってみて?」 「……言ったら安澄は俺のこと嫌いになるから言わない」 「ならない。言って?」 言いたくない。 だってあまりに自分勝手な思いだ。 こんなの聞いたら安澄は絶対俺を嫌うに決まってる。 「景。聞きたい」 「……」 「景」 またちょっと強く名前を呼ばれる。 この呼ばれ方、さっき初めてされたけど、なんていうか…言うとおりにしないとって気持ちになる。 「……安澄が誰かを好きなのが、気に入らないだけ」 「なんで?」 「安澄が俺から離れてっちゃうから、だと思う」 口に出したらどんどん苦しくなってくる。 言葉にしちゃいけない気持ちってあるんだなと知った。 絶対嫌われる。 「俺は景から離れないよ」 「嘘だ。彼女ができたらその人が一番になるに決まってる」 「彼女っていうか…景だけど?」 「は?」 「俺が好きなのは景なんだけど」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!