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「…離して」
「嫌だ」
「実千…」
「俺、まだ高校生だけど、本気だよ。本気で星治さんが好き」
「………は?」
今、なんて言った?
「男同士で、星治さんから見たら『子どもがなに言ってんだ』って思うかもしれないけど、俺は星治さんが好き…すごく好き」
「……」
「お酒、どんなのが好き? 俺、聞いてもわからないかもしれないけど教えて」
「…聞いてどうする」
「親に頼んで代わりに買ってきてもらう。星治さんの思い出になるものをプレゼントしたい」
なんだか身体の力が抜けてきた。
実千が振り向いて欲しい相手って……俺?
「…プレゼントなんていらない」
「じゃあデートに誘っていい? 高いレストランは行けないけど」
「高いレストランも行かなくていい。実千が実千ならそれでいい」
涙で視界がじわじわしてくる。
恥ずかしくて俯くと、実千の両手で頬を包まれて顔を持ち上げられる。
「どうしたの、星治さん」
「……どうもしない」
実千の瞳は澄んでいて綺麗だ。
こんなに近くでまっすぐ見るのは初めてかもしれない。
今、実千が見ているのは俺だけ…。
涙が零れてしまって、実千が慌てる。
「え、星治さん? ほんとにどうしたの?」
「静かにしろ」
「無理無理! 俺、なにか傷付けること言っちゃった!?」
「だから静かに…月や星が逃げるだろ」
「大丈夫」
実千が俺の涙を指で拭う。
「月も星も全部消えて輝きがなくなっても、俺は星治さんを目印にするから」
「…っ!!」
なんだこいつ。
なんだこいつなんだこいつなんだこいつ!
「………実千、最悪」
「ちょっとどきっとしてくれた?」
「最悪過ぎてまた涙が出てきた」
俺も実千に抱きつくと、実千が固まる。
「好きだよ、実千……俺も好き」
「えっ? ……え? え?」
「さっき、実千が好きな人に振り向いてもらいたいっていうのが気に入らなくて、嫉妬した」
正直に言ったら顔が猛烈に熱くなる。
実千が俺の顔を覗き込んで、同じように真っ赤になる。
「嫉妬? 星治さん、俺の“好きな人”に嫉妬したの?」
「そう」
「俺の好きな人は星治さんしかいないよ?」
「うん…」
ぎゅっと抱きつく腕に力をこめると、実千もきつく抱き締めてくれる。
速い鼓動がバレたら恥ずかしいなと思いながら力いっぱい抱きつく。
「星治さん、大好き」
「ごめんな、こんなんで」
「は?」
「実千みたいにかっこよくないし、勘違いで嫉妬しちゃう俺でごめん」
口に出したら情けなくて違う涙が滲んだ。
「嫉妬は可愛いからいいよ。もっとして」
「俺は可愛くない」
「可愛いよ。それに、星治さんが今以上にかっこよかったら俺の心臓がもたない」
「………」
実千って目が悪いのかな。
「星治さん、目瞑ってみて」
「嫌だ」
「じゃあそのまま俺見てて」
実千の大きい両手で頬を包まれ、まっすぐ実千を見つめる。
月明かりの微笑みがとても綺麗で見入っていたら、そのまま顔が近付いてきて唇が重なった。
実千が超至近距離過ぎてなにも見えない。
固まったままでいたら徐々に実千の顔が離れていって、また微笑む。
「俺のことだけ、見てて」
「っ…!」
たぶん、一瞬心臓止まった。
「デートはやっぱり大人っぽいところがいいのかな…」
馬鹿なことを呟いているから、実千の肩に額をのせる。
「ここでいい」
「ここ?」
「実千といられたらどこでもいいけど、どうしてもデートがしたいならここで一緒に夜空を見よう」
俺からもキスをしようとしたら実千が動いて先にキスをされた。
そんなに俺をどきどきさせてどうするつもりだ。
「星治さんってほんとに二十五? 可愛過ぎない?」
「おかしなこと言うな」
「おかしいことなんて言ってない」
もう一度唇が重なって、今度は瞼を下ろすことができた。
END
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