こいのおと

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年の離れた姉が離婚した。 リビングで缶ビール片手に俺に絡んでくるから、仕方なく向かいに座って話を聞く。 「やっぱり友達は友達でいないとだめだった」 「え?」 姉は、仲の良い男友達と付き合って、そのまま結婚した。 友達から恋人への関係の変化、そしてずっとそばにいる。 歩澄とそんな風になりたいと思って勇気を出して告白したのは一昨年。 幸せで、何度『好き』を伝えても足りなくて、どうしようもなく歩澄が愛しくて。 この気持ちはいつまでも変わらない、そう思っている。 「でも、好きだったんでしょ?」 心臓が嫌な音を立てる。 姉は俺の問いに寂しそうに笑う。 「好きだから友達でいたほうがよかった。だってもう私達、友達には戻れない」 友達に戻れない。 歩澄との関係が悪くなる事なんて想像したくないけれど、もしそうなってしまったら、俺達は離れるしか選択肢がなくなる…? 「千歳に言ったって仕方ないんだけどね。…過去に戻りたい」 「……」 怖い。 友達以上が恋人だと思っていた。 でも違う? 経験者の口調からは、友達以上が恋人で、恋人以上が友達のように聞こえる。 ずっとそばにいたいなら、友達のほうがいい…? たぶん、俺は怖かったんだ。 歩澄を失う事以上に、自分が後悔する事が。 「友達に戻ろう」 歩澄の差す傘にのった雪が滑って、とすんと地面に落ちた。 好きだから…大好きだから。 歩澄がなにより大切だから。 ずっとそばにいたいから、友達でいさせて。 「歩澄、帰ろう」 「うん」 抜け殻のようだった歩澄が少しずつ口元を緩めるようになった。 その視線の先にいるのは歩澄の幼馴染。 俺は大きな間違いを犯したんじゃないか。 結局後悔している俺。 友達としてそばにいる事を選んだのに、歩澄が笑うのが俺のためじゃない事に心が灼かれる。 でも戻れない。 俺も過去に戻りたい……あの頃のふたりに。 そうしたらもう二度と絶対、なにが起ころうと同じ間違いを犯さないのに。 …なんて、今更どうにもならない。 俺が種を蒔いたんだ、その結果を刈り取らないといけない。 わかってる。 わかってるのに悔しくて苦しい。 俺の前を通り過ぎる歩澄と、歩澄の幼馴染を見送る。 友達でいるから、見守らせて。 ――――恋の音は止まないけれど。 END
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