こいのおと

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「……俺、歩澄が好き」 「え?」 「歩澄がすごく好きなんだ」 顔を上げると高嶺の真剣な瞳が俺を映している。 立ち止まった俺の手を取り、ぎゅっと握る。 「歩澄に俺を選んで欲しい」 「高嶺…」 「傷付いてる歩澄を見てるの、俺ももう辛い。また笑って欲しい」 「……」 思わず目を逸らしてしまう。 逃げるつもりはないけれど、まっすぐな視線を受け止められなかった。 「早く元気になって欲しいし、新しい恋に目を向けてもらいたい」 こんな時でも優しい声音。 ゆっくりと紡がれる言葉は温かくて怖い。 「本当は、過去の恋人に縛られてる歩澄に優しくするのも辛い」 「え…」 「だって俺がなにをしても、なにを言っても全部歩澄の心を素通りしてるんだよね?」 「……」 そんな事ない、全部受け止めてる。 でもうまく答えられない。 詰まった言葉を呑み込むと、また石が溜まっていくようにお腹が重くなる。 「歩澄が傷付いてるから優しくしてるんじゃない。俺を見て欲しいから優しくしてる」 「高嶺…」 「俺じゃなくてもいいとも思ってたけど、やっぱり好きな人の心がどこかに行っちゃうのは……今度は俺が笑えなくなるかも」 笑って見せる高嶺が泣き出しそうで、心臓がぎゅっと痛くなる。 どうしたらいい…? できるなら、高嶺にいつでも笑顔でいてもらいたい。 俺はどうしたら高嶺の気持ちに応えられるんだろう。 …どうしたら千歳から心を離せるんだろう…。 「あの…高嶺…」 「無理なら振って。絶対諦められないけど」 「……」 握られた手が熱い。 でも高嶺の手は指先が冷たく、小さく震えていて、それだけ俺に真剣に向き合ってくれているとわかる。 視界の中に行ったり来たりする千歳の影。 クラクラしてぐるぐるする。 だんだん自分の形がわからなくなってきた。 「…ごめん。ちょっとだけ待って」 「うん。俺こそごめん…こんな道端で。帰ろう?」 「……うん」 軽く手を引かれて歩き出す。 そういえば小さい頃からいつも高嶺は俺の手を引いてくれていた。 この優しさに引かれて、もう一度歩き出せるだろうか。 見上げると、曇り空からうっすら陽が射している。
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