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「坂本」
「「え」」
翌日の昼休み、学食に行くとなぜか鈴山が待っていた。
一緒にいた友人達が驚いている。
「由希、いつ鈴山と仲良くなったの?」
「昨日」
「友達と一緒だったんだ…じゃあ邪魔しちゃうから」
鈴山はひとりで学食に入って行こうとするので友人達が止める。
「いいじゃん。鈴山も一緒に食えば」
「そうそう。別に邪魔とか思わないから」
「…いいの?」
「うん」
鈴山は嬉しそうにしたあとに少し複雑そうな顔をする。
どうしたんだろう。
なんて考えて突っ立ってたら席が埋まってしまうから四人で学食に入った。
「……いや、食うの早過ぎだろ」
「由希は遅過ぎるし鈴山は早過ぎるし、極端だな…」
やっぱりびっくりするよな。
でも今日は昨日よりゆっくり食べていたように見える。
それでもかなり早いんだけど。
友人達の言葉に鈴山は恥ずかしそうに少し頬を染める。
さっきの複雑そうな顔は早食いを見られるのが恥ずかしかったからかも。
「うん。坂本みたいにゆっくり食べたいんだけどね」
「いや、由希まで遅かったらそれはそれで苦労すると思うよ」
「そう。その通り」
つい頷いてしまう。
本当はぱっと食べて他の事をしたい時だってある。
それなのにこの遅食いのおかげでできない事があったりもして、悔しいなと思ったりもするんだ。
だから早食いのほうが得だと思う。
早起きは三文の徳って言うし……これはちょっと違うか。
でも早いほうがいいに違いない、と俺は思っている。
「もし鈴山と由希が付き合ったら大変そう」
「「え」」
唐突な話題に俺と鈴山の声が重なる。
「ほんとだ。一緒にメシ食ってても、片方はぱっと食べ終わっちゃうし、片方はいつまでも食べ終わらないし」
「「……」」
なんとなく鈴山と顔を見合わせてしまう。
別に付き合うつもりはないけど、でも確かにふたりの言う通りだ。
これって俺、彼女ができた時に大変なんじゃないの?
早く食べ終わる分にはいいけど、遅くて相手を待たせるって絶対イライラさせる気がする。
…彼女できるのかもわからないのにそんな心配する必要ないのかもしれないけど。
「でも坂本はそのままでいいよ」
まただ。
鈴山は俺を肯定してくれる。
優しいなぁとじっと見てしまう。
「そーなんだ…。じゃあ前言撤回。鈴山が彼氏になってやれば万事解決なのかもな」
「そうかも。じゃ、先戻ってるから」
友人ふたりは勝手な事だけ言って席を立った。
残された俺と鈴山はなんだか気まずい。
とりあえず俺は食べる。
「鈴山も戻っていいよ。俺に付き合ってたら昨日みたいに昼休みなにもできないから」
そしてちょっとこのなんとも言えない空気をかき混ぜたい。
鈴山を変に意識してしまいそうだ…男同士なのに。
「いや、坂本が食べるとこ見てたいから」
「……」
なんとなく鈴山の顔を見てしまう。
かっこいい上に優しい。
これはモテるわ。
…あれ。
「鈴山って休み時間には必ず女子から告白の呼び出し受けてるんじゃないの?」
そういう噂だ。
でも鈴山は首を横に振る。
「まさか。そんなの嘘だよ。呼ばれるのはたまに」
「……」
たまにでも呼ばれるのはほんとなんだ…。
「でも俺、今誰かと付き合う気ないし」
「そうなの?」
「うん。告白してくれる子だってほとんどが俺の見た目だけ好きなんだろうし。そういうの苦手」
「そっか…」
かっこいい人にはかっこいい人なりの苦労や悩みがあるらしい。
俺には一生わからん。
「でも、坂本の友達の言う通りかも」
「え?」
「坂本、俺と付き合う気ない?」
「!?」
箸が手から転がってしまった。
なに…なに?
『付き合う気ない?』って言った?
え?
「俺、坂本となら付き合えると思う」
「いや…え?」
「それに付き合ったら坂本がご飯食べるところずっと見てられるんだから、最高じゃない?」
「は?」
最高ってなにが?
俺が食べてるところ見てなにが楽しいんだ。
「…好きでもない相手と付き合おうとするの、よくないよ」
うん、うまく躱せたんじゃない?
これなら鈴山も納得するはず。
「え…俺、坂本好きだよ?」
「!?」
「それに坂本をもっと好きになりたいとも思う」
「!?!?」
「な、付き合おう?」
「……」
なに。
なんか押してくるな。
ていうか昨日の今日だぞ。
確かに俺だって鈴山の事、嫌いじゃないし、好きかって聞かれたら好きって答えられるけど、それは恋愛感情かって聞かれたら『?』になる。
「そうだ。坂本、今度の休みに一緒に出かけよう?」
「え」
「“デート”って言うにはまだ早いみたいだから、今は一緒に出かけるってだけ」
「…別にいいけど」
ん?
『まだ早い』って言った?
「じゃあ連絡先交換しよ。行きたいとこあったら教えて。ご飯は絶対一緒に食べる」
「……うん」
「学食じゃ落ち着かないから、他のとこでふたりでご飯食べられるなんて嬉しいな」
なんか…押されてないか。
めちゃくちゃ押し切られてる気がするし。
だからって嫌なわけじゃないんだけど、鈴山の言葉と友人達の言葉が頭の中でぐるぐるしていて顔が熱い。
俺と鈴山が付き合うなんて…ないだろ。
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