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メンズファッションモデルが画像からそのまま抜け出してきたかと思った。
それくらい私服の鈴山は眩しい。
周囲の視線も集まっている。
「どこか行きたいとこある? 買いたいものとか」
「特には…」
「じゃあとりあえずそこのショッピングモールでも行こうか。見たいものあったら言って」
「うん」
つん、と鈴山の手が俺の手にぶつかり、心臓が飛び跳ねる。
「ごめん」
「ううん…」
先日以降の会う度の押してくる具合から、わざとかと思ったら違ったみたいだ。
ふたりで並んで歩いて色々な店を見て回る。
「これ、坂本に似合いそう」
「そう? こういう色着た事ない」
「試してみたら?」
不思議と心がふわふわするような感覚。
俺がこんなに居心地よく感じているのを知ったら鈴山はどう思うだろう。
やっぱり喜ぶのかな。
なにか目的があるわけでもないから、色々見て回ってはお互いに似合いそうなものを見つけてみる。
こういうの、初めてだけどすごく楽しい。
…鈴山と一緒だから楽しい…?
「坂本、ご飯食べよう」
「え、もうそんな時間?」
「うん」
時間を確認するともう十二時半。
あっという間に時間が経っていた。
ショッピングモール内のファミレスは、タイミングがよかったみたいで少し待っただけですぐ入れた。
なにを食べようか、とメニューを見て考える。
やっぱり早く食べられるものがいい。
俺がスパゲティを選ぶと、鈴山は食べるのに時間がかかりそうな和食の御膳にした。
結果、鈴山があっという間に食べ終えて俺はいつまでもスパゲティをくるくるしているという状態…。
なんでだ。
なんでスパゲティと和食御膳でこうなる。
鈴山は俺が食べるところをじっと見ている。
「ほんとに美味しそうに食べるね」
「そうかな」
「うん。作った人も喜んでるよ。そんなに大切に食べてもらえたら作り甲斐もあるし」
「そうかなぁ…」
なんだかうまい言い方されてるけど、俺はやっぱり早く食べたい。
遅食いにいい事なんてない。
「…坂本にご飯作ってあげたいな」
「え?」
「坂本が俺の作ったものを食べてくれるところ、見てみたい」
「それは…」
なんと言うか…まるで告白のような…。
いや、そう言えば付き合おうとか言われたっけ。
でも鈴山が興味があるのは俺の食べるところだけだし。
だけど好きって言われた…。
あーもうよくわからん!
「す、鈴山は料理得意なの?」
話題を変えよう。
そうしたら心が落ち着くだろう。
「得意って言うか、好きかも」
「そう…」
かっこよくて優しくておしゃれで料理も好き。
スペック高過ぎ。
なのに誰かと付き合う気はなくて、俺に付き合おうと言う……やっぱりここに戻ってしまった。
「坂本の好きなタイプってどんな感じ?」
「好きなタイプ?」
「うん」
そんなの考えた事ない。
いつもどんな人を好きになってたっけ。
ていうか今、好きな人いたっけ…。
自分の事なのに他人の事のように考える。
好きな人、好きな人…。
考えながら視線を彷徨わせていたら鈴山で目が留まった。
目が合って鈴山は『ん?』と微笑む。
好きな人…。
「……」
「坂本?」
「え? あ、…いや、俺全然、好きなタイプなんてないから」
「そうなの?」
「…うん」
“好きな人”という言葉にぴったりはまったのが鈴山だった。
静まれ心臓。
「じゃあ俺にも可能性はあるわけだ」
「は?」
「坂本、好きだよ」
「!!」
フォークを落としてしまう。
床に転がったフォークを鈴山が拾ってくれて、代わりのフォークを俺に手渡そうとしてなにかを思いついたようにそれで俺のスパゲティをくるっと巻き付ける。
「?」
「はい、あーん」
「!?」
口元に差し出されてもどうしたらいいかわからない。
期待に満ちた鈴山の目。
恐る恐る口を開けるとそっとスパゲティを運ばれた。
「こうやって食べれば遅食いも直るかもよ?」
「……でも心臓に悪い」
「え?」
「なんでもない」
鈴山の言動に跳ねる心臓のほうが素直だ。
…もう手遅れかも。
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