二学期

12/12
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
授業が終わり、帰宅しながら、月緒は一郎にメールをした。 「一度、家に帰って出なおすわ、どこに行けば良い?」 「じゃ、欅通りの外れに有る、亀の子公園で会おうよ」 「良いわ、じゃ、その公園で待ってるね」 月緒は、家に帰って、着替えると、車に乗って亀の子公園まで行った。 公園のベンチに座って、待っていると 「ごめん、待った?」と、両手に、桃のスムジーを持った一郎が駆けて来た。 「ううん、ついさっき来た所」「良かった、これ飲む?」 「うん、有難う」と、スムージーを受け取った月緒の横に、腰かけた一郎は 「忙しいのに、悪いな」と言う。 「全然、私、家では何もしないから、夕食までは暇なの」 「そうか」一郎は、安心したような顔で、スムージーを飲みながら 「うちは、江戸時代から続く、医者の家でね」と、自分の事を話し始めた。 「医者って、、市役所の前に有る、あの、大きな相馬病院?」 「うん、父が院長で、母が副院長をしてる」「そうなんだ」 「僕には、姉が二人居るけど、二人とも医者で、両親も祖父母も 叔父叔母に至るまで、全員医者なんだ」「わぁ~凄いね~」 「だから、当然、小さい時から、僕も医者になるものだと思っていたんだ。 だけど、中学に入った頃から、僕は、医者には向いていないんじゃないかって 悩む様になったんだ、理科で蛙の解剖なんか見たら、気分悪くなるし 天才的な頭脳を持っている、姉二人は、先生の話さえ、聞いていれば テストで、100点を取るのは、当然だって言うけど 僕は、必死で勉強しないと、100点は取れなかった。 高校入試も、医大を目指すなら、神宮町の神宮高校に、行く方が良いんだけど 受かる自信が無くて、家から近いからと言う理由を付けて 三条高校へ入ったんだ。 格下の三条高校だから、学年一位と言う成績は、当然だと言われていたから 僕は、それだけを必死で守って来たけど、神宮高校から転校して来た 君に、あっという間に一位の座を、奪われてしまった」 一郎は、一気に、そこまで話し終えた。 「そうだったの、でも私が一番だったのは、たまたまで 二学期は、君が一位になるかもよ」月緒は、そう言ったが 一郎は、悲しげに首を振り 「分かるんだ、やっぱり神宮高校に行けなかった僕だから、、」と、言う。 さらに「僕は、勉強以外、何も出来ない、その勉強でも、追い抜かれちゃって 何も無くなった、もう、死んだ方が良いかなって、思っちゃったんだ」 「そんな事で、、」「そうなんだ、君と違って、こんなつまらない事で 死のうとしたんだ」一郎は、自虐的な顔でそう言った。 その時、そんな二人を目にして、驚いている明弘がいた。 明弘は、総務課長の飯塚に 「秋の物産展の事で、商工会の会長に会いに行くんだ、お前も来てくれ」 と、頼まれた「何で、会計課の俺が、、」と、渋る明弘に 「会長は、お前を連れて行くと、機嫌が良いからな~ 何事も、スムーズに運びたいからさ」と、重ねて頼まれ 「仕方ない、、」と、一緒に、車で、商工会議所まで行く途中だった。 明弘が見ている方を見た、飯塚は 「あれは、相馬病院の坊ちゃんじゃ無いか」と、言い 「一緒に居るのは、彼女ですかね、可愛いですね~」と、運転手も言う。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!