泥被り姫

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翌日、月緒は体育着だったと言う、紺色のジャージの上下を着て来た。 「昨日は、、」と、挨拶をしていると、引っ越し屋の大きなトラックが来て 荷物を降ろし始めた。 「冷蔵庫は、どこに置きますか?」「え、え~っと」 「ここに置くと、便利だよ」と、明弘が教える。 「じゃ、洗濯機は、、」「それは、ここしか無いよ、洗濯機用の水道と 排水が、ここに有るんだからな」「あ、そうか~」 と、頼りない月緒の代わりに、明弘が、全て家具の配置も決める。 独り住まいの家具も、それほど多く無く、昼前には片付いた。 「有難う、一人だったら、明日まで掛かっても、片付かない所だった」 と、月緒は、感謝する。 そして「これ、、」と、茹で蕎麦の袋を、明弘に見せる。 「引っ越し蕎麦か、じゃ、昼飯は、これにするか、お前んちの台所より うちで作った方が、早いな」明弘はそう言うと 二個入りの蕎麦の袋を持って、自分の家に、月緒も連れて行き 手早く、蕎麦を茹で直し、露を作って、生姜の擦り降ろしや 葱の小口切りと言う、薬味を添える。 揉み海苔を散らして「さぁ、食おうぜ」と、月緒にも勧める。 「美味しい!!」と、月緒が食べていると、チンと、レンジの音がした。 餃子が、皿一杯に熱い湯気を立てている。 「俺が作った餃子だ、旨いぞ」そう言うので、それも貰って食べる。 だが、三個食べた所で、もう、お腹が一杯になる。 「もう一杯だって?ひ弱な胃だな~」と、後は、全部、明弘が食べる。 「お蕎麦も食べたのに、、」と、月緒は、目を丸くする。 それには構わず「さっき、引っ越し屋が小野田さんですかと、聞いていたが どう言う事だ?」と、聞く。 「あ、昨日は、つい前の苗字を言ったけど これからは、小野田になったんです」「何で?」 「私の面倒を見てくれる人の、養女って言う形になったので、、」 「ふ~ん」「住む所も、学校も、苗字も変わったので 全てを、生まれ変わらせようと、髪も切ったんです」 「じゃ、髪は、まだ長かったって事か?」「はい」 「長い髪も良いかも知れんが、俺は、その髪の方が好きだな」 「そうですか」月緒は、嬉しそうに笑う。 これからの、この子が、いつもこんな笑顔だと良いなと、明弘は思った。 「ご馳走様」と言って、帰って行った月緒は、まだ、ごそごそと 片付けている様だったが「済みませ~ん」と、明弘を呼びに来た。 「どうした?」「洗濯機が、動かないんです」 「何だって?買ったばかりの新品だろ?」「はい、そうなんですが」 行って見た明弘は「これだよ」と、水道の元栓が、閉まっている所を見せる。 「あ、ここを開けないと、水が来ないんだ」「そう言う事」 「な~んだ、故障じゃなくて良かった~」月緒は、ほっとした顔で言う。 「おっ、随分綺麗になったじゃ無いか」部屋の中は、綺麗に片付いていたが およそ17歳の男の子の部屋らしく無く、パステルカラーが溢れる 随分明るい感じになっていた。 『近頃の子供って、こんな感じなのか~』その頃の自分の部屋を思い出し 『ま、男性が、メイクする時代だからな~』と、納得する。 だが、一か所だけ、あの頃の自分の部屋と、同じ所が有った。 台所だ、台所には、調理道具が、ほとんど見当たらない。 炊飯器も無く、有るのは電子レンジだけだった。 「飯は、炊かないのか?」と、聞くと 「一人だから、、」と、小さな声で言う。
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