泥被り姫

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今までも、仕事で忙しい母は、料理を作る暇が無くて 大抵、レトルト食品か、冷凍食品で、済ませていたと言う。 「そうか、今は、コンビニや総菜屋で、手軽に旨い物が手に入るが やっぱり、料理は出来た方が良いぞ、これは、経験者の言葉だ」という事は 明弘も、昔は自分みたいな暮らしをしていたのかと、月緒は思う。 「今は、学校の授業でも、料理も教えてくれるんだろ?」「はい」 「なら、少しは料理も出来るんじゃ無いのか?」「それが、、、」 あまりにも、下手なので「貴女は、見ているだけで良いから」と どこのグループでも、外されていたと言う。 「そんなに下手なのか?試しに、このジャガイモを剝いて見ろ」と 明弘が、包丁とジャガイモを持って来て、渡したのだが 直ぐに、顔色を変えて「も、もう良い、お前には、包丁は無理だ」 と、取り上げる。 見ているだけで背筋が寒くなるほど、月緒の包丁使いは、危なっかしかった。 それでも「仕方ない、剝きやすい林檎の皮むきで、練習しよう」 明弘は、諦めずに言う。 「え?」何でそこまで、してくれるのかと、月緒は不思議だった。 「何でも、出来ないより、出来た方が良いからな」と、明弘は言い 自分の家に連れて行くと、冷蔵庫から林檎を出して来て まず、四つ割にさせ、その一つを持たせて 「良いか、実と皮の間に、こんな感じで包丁を入れるんだ」と 月緒の後ろから、月緒の両手に、自分の両手を重ねて 包丁の入れ方と、剥く力加減と、それを支える、左手の力加減を教える。 「あ、、」月緒が、顔を赤くして、もじもじしていると 「こら、手と包丁に集中しないか、気を抜くと手を切るぞ」 と、明弘は、注意する。 「は、い」仕方なく、言われた通りにすると 「そうだ、良いぞ、その調子だ」と、明弘は、褒めまくる。 でこぼこだったが、何とか、四つの林檎を剥き終えると 「よし、今度は、丸のままを剥いてみよう」と、また林檎を取り出す。 「良いか?力加減は、さっきと同じだ」「はい」 そう言うと、又両手で月緒の両手を支え、少しずつ剝かせて行き 暫くすると、自分の左手を離し「良い調子だ、そのまま、そのままだぞ」 と、今度は、右手も離す、途端に、それまで綺麗に剥けていたのが でこぼこになったが「良いぞ、良いぞ」と、言って呉れるので そのまま、最後まで剝けた。 「やった、やったぞ、出来たじゃ無いか」明弘は、自分の事の様に喜ぶ。 そして「お前は、やれば出来る子なんだよ」と、頭をぐりぐりと撫でる。 月緒も、初めて剥いた、林檎を見て、嬉しくなる。 「おっと、このままじゃ、色が変わる」明弘はそう言うと 剥いた林檎を、塩水に浸けた。 そのまま明弘が作った、夕食のハンバーグを、ご馳走になり 風呂も、入って行けと言われたが、断って家に帰った。 翌朝は、日曜日なので、月緒が、ゆっくり寝ていると、チャイムが鳴った。
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